第65話「リミテッド・エレクト②」
「チッ…ジンさんと善までもか…
あいつがエレクトだとはな…
気にくわねぇな!
まぁいい…
見せてもらおうか、橘善
そのエレクトの力とやらをよ!」
琢磨はまだ見ぬ善のエレクトの力に興味津々だ。
「あぁ…覚悟しろよ…
なぜだかは分からねぇが、今の俺なら
おまえに負ける気がしねぇ!!」
人が変わったように強気になる善。
そんな姿が琢磨の気にさわる。
(けっ!よく言う…さっきまで死に損ないだったくせによ!!
まぁ確かにその力は凄そうだが…
何も別に剣術のスキルが上がったわけじゃねぇ!
あいつは剣だけなら大悟より弱い!
俺が負けるわけがねぇ!!)
善のおかげで、すっかり立てるほどに回復したメンバー一同。
これから始まる、覚醒した善VS琢磨
この戦いのまえに、ふと志保は思うことがあった。
「ねぇ大悟…
今の善…あいつの体にはずっと炎がまとってる…
これじゃ琢磨も、得意の“闇”の力を使えないんじゃない?」
「確かにな…
だが、さすがにあいつの闇だって、そこまで弱くはない
武器の大鎌ぐらいは使えるだろう
たった一つの武器ではあるが…
正直、琢磨にはそれで十分なほどだ
それほどまでにやつは強い…やつの力は本物だ」
目の前の善の姿を見ても、臆することのない琢磨。全くひるむことはない。
「行くぜ善!
まともにやれば俺が負けるわけねぇ!!」
琢磨は闇の鎌を作り出し、善に攻撃を仕掛ける。
一方善は、ぼそぼそと一人小言を呟いていた。
(くそっ…レトインの野郎…
またあいつに助けられちまった…
俺達はもう敵なんだ
なのに…
俺はあいつに今、感謝しちまってる…
あいつに礼を…?
いや、なんでそんなこと…
とにかく…何かあいつには言わなきゃ気がすまねぇ…
俺は…あいつにもう一度会うまで……
絶対に死ぬわけにはいかねぇ!!!)
善の目つきが変わった。善は炎の剣を作り出す。
しかも、先程挑戦したばかりの“二刀流”だ。
「二刀流か!!
まぁ…
予想はついてたよ!くらえ善!!」
琢磨が先に攻撃を仕掛けていたはずだが
善の攻撃はとてつもなく鋭く…
「!!!
なにっ!?」
善の両手から繰り出される炎の剣の攻撃を
なんとか凌ぐことで琢磨は精一杯だった。
(こ、こいつ…
どんどん成長していく…
戦い始めた頃とは、まるで別人のようだ…
恐ろしい速度で強くなっている…
それでいて…この“力”…)
まだ付き合いの短いエーコも、善の成長を感じとる。
「すごいし…善の動きが全然違うし!!
それに善の剣…なんかいつもよりでかくない?
倍ぐらいある感じするし!」
エーコの言葉に大悟が頷き、推測をたてた。
「あぁ…もしかしたら、いつもの善のイフリート・ソード…
あれはメンタルを気にして、限りなく力を抑えていたのかもしれないな
どうやら今の善は、メンタルを気にする必要性がないと見える」
今善が手にしている二つの炎の剣。
エーコが言ったように、通常の倍ぐらいの大きさがあった。
(厄介なのはそれだけじゃねぇよ…
大悟の大剣並の大きさのくせして…
大悟の土の剣のような、火には“重量”がない!
おそらくとてつもなく軽い!!
そのリーチにして今の速度…
これは…手がつけられねぇ…
だがよ…
いくらなんでも、俺が負けるわけねぇだろ!!)
琢磨は自信に満ちていた。
エレクトの力、そして今の成長した善。
琢磨は完全に見くびっていた。
「死ね!!!橘善!!!」
琢磨の『死ね』の言葉に反応するように、ぼそっと善が反発する。
「だから…俺は死なないっての…」
「ん?なんか言ったか!?」
大鎌を手に、向かってくる琢磨。
善は微動だにしない。
琢磨の攻撃が善に触れる寸前、善が動き出した。
善は両手に握られた2本の剣を合わせ
一つの大きな大剣へと形を変えた。
「!!!
2つの剣をまた一つに!?」
ただでさえ大きかった善の剣。
その剣は更に倍へと膨れ上がった。
「こんなとこで俺は……
死ねねぇんだよ!!!」
善は一気に巨大な剣を振り抜いた。
善が振り抜いた一撃は
琢磨の大鎌の攻撃をもろともせず…
炎の大剣は大鎌を完全に切り裂き、琢磨の体まで行き届き貫いていた。
「がっ…バカな…
たかが…ちょっと力が使えるようになったからって…
簡単に…俺が負けるなんて……」
琢磨は口から血を吐きながら崩れ落ちた。
エレクトとして目覚めた善。
先程まで苦戦していたのが嘘のように
たった一振りで勝負は決まった。
「善!!やった!!
琢磨を倒した!四天王を倒したよ!!」
大逆転の勝利に喜び、善のもとに一同は走る。
善にも笑顔が見られると思われたが…
「善……?」
善には一つも笑顔はなかった。
本当にいつもの善とは別人のようで
仲間であるはずの志保が、恐怖を覚えた。
未だ炎の体に包まれる善は、ゆっくりと歩き始める。
「お、おい!善!
どこへ行くんだ!?」
大悟の声が聞こえなかったのか、それとも無視したのか…
どちらかは定かでないが、善はレトインが出て行った2階の方へと向かっている。
善の意識はもうろうとしていた。
恐らく、今自分でも何をしているのか、よく分かっていないだろう。
意識がはっきりしない中で、善はそっと呟いた。
「レトイン……」
そう静かに言って、善はうつ向いた。
うつ向いたと同時に、善は床に落ちている“あるもの”の存在に気付く。
善はしゃがみこみ、あるものを拾った。
(なんだこれ…ペンダント…?)
ペンダントが床に落ちていたのだ。
その持ち主の分からぬペンダントは、開閉式になっており
善はそのペンダントの中身をそっと開けた。
するとそこには見知らない、一人の女性の写真が収められていた。
(誰だこれ…?てか誰のだこれ…?
もしかしてこれ、レトインの…かなぁ……)
意識がいつ飛んでもおかしくない善に、ついに限界が訪れた。
善のエレクトの力はぷつりと切れ、纏っていた炎は消え
善はペンダント片手に、がくりと膝から崩れ落ちた。
「善!!!」
善が床にうつぶせで倒れ
その拍子に善の手からペンダントが放り出される。
善の目が閉じると同時に
ペンダントのフタも閉ざされた。
ペンダントに写っていた笑顔の女性
その女性は、また再び闇へと閉じ込められてしまった。
第65話 “リミテッド・エレクト” 完




