第59話「捨てられぬプライド③」
一度も自分から攻撃を仕掛けてこなかった、四天王・琢磨
ここに来て始めて自ら攻撃を仕掛けだした。
琢磨はリーチのある大鎌を振る。
リーチが長い分、大悟の体から若干の距離がある。
(何!!!速い!!!)
琢磨のキレのある攻撃に、一同は驚いた。
特に驚いたのは善だ。
(なんだこいつ…
弱いんじゃないのか…?)
琢磨の俊敏な攻撃が続く。
今までののんびりなイメージが、ガラリと変わった。
「だ、大悟が…
押されてる…?」
善は大きなショックを受けた。
大悟は剣術において、自分より上の存在。
その大悟が、琢磨に圧倒されている。
琢磨を完全に見くびっていた。
ようやく善にも琢磨の、あの自信の意味が理解できた。
琢磨の鋭い攻撃の連続に、大悟は身動きが取れないでいる。
(くそっ…
あの鎌のリーチでこの速さ…
これでは全然ヤツの懐に入り込めない!!
ちまちま俺達の分身で体力削られるより、よっぽど強力じゃないか!!)
防戦一方の大悟に、がっかりの琢磨。
「なんだ…
こんなもんだったのか?大悟って…」
「だ、黙れ!!」
傍観者となりかけている、善たちに琢磨が気づいた。
「他のやつらも暇だろ?
もう一人の俺が、今そっち行くからさ!」
大悟と琢磨が1対1の戦いを繰り広げている中…
善たちの前には…
「これは…琢磨の影…
琢磨のドッペルゲンガー!!」
琢磨の分身が立ちふさがった。
琢磨は自らの分身を作り出していたのだ。
「あれだけ大悟が苦戦するのを見せられると…」
「大丈夫だし!こっちには相性がいい善がいるんだから!
さぁ善、また火炎地獄おみまいしろだし!」
苦戦する大悟を見て、志保は弱気になるが、エーコは常にポジティブ思考だ。
「簡単に言うな!
あれはすげぇ時間かかるんだよ!
さっきもみんなに時間稼いでもらってやっとだったろ…」
火炎地獄には時間を要する。
エーコの考えるほど、甘くはない。
「でも相性がいいのは確かだ
俺がやるしかねぇな…」
それでもカギを握るのは善だ。
善は気合いを入れ直す。
とは言ったものの、どうしても一人戦う大悟が気になる。
善が志保とエーコに声をかけた。
「俺の方はいい
どうせ分身だ 倒しても意味がねぇ!!
2人とも、大悟のサポートに回ってくれ!」
「そうだね!大元を倒さなきゃ、何もならないしね!
大悟、今行くから!」
志保とエーコが、大悟のもとに急いで駆けつけようとする。
しかし……
「来るな!!!」
「えっ…?大悟…?」
大悟が助けに来る志保とエーコを叫んで止めた。
「俺の方は大丈夫だ…
いいからお前たちは、影の方を相手していろ!!」
「でもそれじゃ…」
「いいからそうしろ!
琢磨は俺が一人で倒す 俺を信じてくれ、善」
手を差しのべるも、大悟は言うことを聞かない。
大悟は善に自分の思いを訴えかけた。
今のセリフを聞いていた琢磨。
完全にスイッチが入る。
「言ってくれるねぇ~…大悟くん
キミの意地…プライド…
立派なもんだよ!サシでの勝負、受けてたつよ!!」
普段やる気をあまり出すことのない琢磨だが
今の一言で、どうやら琢磨の闘志に火を着け、本気にさせてしまったようだ。
「何言ってんだよ…何やってんだよ!!
こんな時に、勝負なんかにこだわってる場合かよ大悟!!」
善は大悟の身勝手な行動に怒り、声を張り上げた。
そして大悟は、その善をじっと見つめるように、静かに言葉を返した。
「………
俺を信じろ…善」
「バカ野郎!!!
(俺だって大悟が勝つことを信じたい…
けどこっちは分身だぞ!?戦ったって意味ないんだぞ…?
そんなプライド…必要あるのか…?
どうしたらいいんだ…俺は…
今すぐ1対1の戦いを止めるべきか、それとも…
大悟の意志を尊重すべきか…
こんなとき俺は…
“あいつ”みたいに冷徹にはなれない…
俺はどうすれば…
どうすればいいんだ…)
第59話 “捨てられぬプライド” 完




