第58話「捨てられぬプライド②」
善が力を放つと、その火の塊は無数に飛び散り
次々と大きな炎が、工場内を取り囲むようにして立ち上がった。
この攻撃は、以前エーコと戦ったときに見せた技だ。
「あたし達まであっついし!
でもあたしこれ知ってるし!!
これやられたら、あたしの氷の攻撃出せないんだし!
それぐらい影響するんだから!!」
工場内の温度と共に、エーコのテンションも上がる。
すると……
「!!
見ろ!!影が…ドッペルゲンガーが…
どんどん小さくなっていくぞ!!」
火から放たれる“光”によって、ドッペルゲンガーはみるみるうちに小さくなっていく。
「よっしゃぁ!!
これでもう影からの攻撃も終わりだぜ!!」
善が雄叫びをあげると
ついには……
「あっ!影が…私達の元に…」
琢磨の命令で敵となり動き出していた自分達の影が
本来あるべき場所、いつも通りの地へと戻っていった。
「倒した…
ようやくドッペルゲンガーを打ち破ったぞ!!」
打ち破ったことを善は喜んだが、元に戻った影を見て大悟は
『戻ったということは…
またやつの手によって、出現させることができる…』
そう察して、喜びながらも少し不安を覚えた。
戦いの邪魔となっていた影も消え、残すは本体の琢磨のみ。
まだ立ち上がる炎が、勢力を落としながらも燃える中で
四天王・琢磨は…
「あいつ…
こんな状況下でも寝てるし…」
まだ眠りについていた。
ドッペルゲンガーが消滅してるにも関わらず。
「これってもしかして超チャンスじゃね?
苦しめられた分、俺がきっちりお見舞いしてやるぜ!!」
善はここぞとばかりに、眠る琢磨にイフリートソード片手に近づいた。
そして琢磨に、うっぷんを込めた一撃をかます。
しかし……
キン!!!
何か刃物のようなもので、善の攻撃は受け止められてしまう。
「第一段階突破!やるじゃねぇか!!」
伊達に四天王もそんなに甘くはない。
寝ていたように思えた琢磨だっだが、どうやら意識はあったようだ。
「てめぇ…起きてたのか…?」
「起きたのはさっきだけどね
こんなに熱けりゃ、寝られるわけねぇじゃんか…」
琢磨は軽く体をほぐしながら、ゆっくりと起き上がった。
「さっきの攻撃…
“こいつ”で受け止めたわけか!」
「まぁね…
やる気はイマイチ出ないけど、さすがに痛い思いはしたくないんでね」
琢磨の右手にはある“武器”が握られていた。
ようやく戦闘モードに入るようだ。
「その武器は…鎌?」
「あぁ 大鎌ってやつ?
闇って言ったら鎌が似合わねぇ?
カッコイイだろ?だからこいつにしたのよ!」
リーチが長く、大勢を相手するには、もってこいと思われる
闇の力で作られた大鎌
それが琢磨の武器のようだ。
「そんな理由で選ぶとは…
ふざけているように思えるが…
もちろん本気なんだろうな」
「当然!
ようやく周りの火の力もおさまってきたわけだし…
こっからまた完全に俺のペースでしょ!」
善の放った火炎地獄
その力も今やほとんど失われていた。
少し力を溜めたぐらいでは、長時間はもたないようだ。
「くそっ…
もう終わっちまったか…
やっぱもっと力溜めなきゃだめだったか…」
「これで闇の力も安心して使えるな!
またお前達の分身、ドッペルゲンガーでも作って、俺はゆっくり休んでようかなぁ~…」
肩を落とす善に対し、琢磨は余裕の素振りを見せる。
よほど自分の力に自信があるのだろう。
(予想通りね…
いくらでも影は生み出せる…
何度倒しても意味がない…)
ドッペルゲンガーを何度も生み出せることを知り、志保は絶望を感じていた。
だが、琢磨はそれでは飽きたらず、新たな手段を取る。
「けどまた同じの作るんじゃおもしろくないな!
なにより…
おまえ達の分身じゃ弱い」
「!!!」
「だって、この中で一番強いのは…
俺だからね!
俺の分身作った方がおもしろい!」
そう自信満々に琢磨は言いきる。
今までやる気がなかったと思われたが、急にこの態度。
どうしても琢磨の強さとその自信には、疑問が残る。
疑って仕方がない善が、強気に出た。
「えらい自信だな!
一番強いのはおまえだ…?
そりゃ聞き捨てならねぇな…」
先程の琢磨のセリフに、善は苦言を呈したいようだ。
「この中で一番強いのは…
大悟だ!!
大悟、やつと戦って証明してみせろ!!」
「お、俺かい!!」
これを聞いた琢磨は、嘲笑するかのように鼻で笑った。
「ふっ…大悟か…
俺はめんどくさがり屋で、訓練とかよくサボってたからか…
大悟とは一度も手合わせしたことなかったな…」
「あぁ…そうだな…」
「あんまり真面目にやってないと、さすがにジンさんにも怒られちゃうし…
めんどくさいけど…
やってやるか!行くぞ大悟!!」




