第51話「魔性の女①」
ライジングサンの一同は、ジョーカー・四天王の一人、ジンの次に強いと言われる男
“東條” に力の差を、まじまじと見せつけられた。
「くそっ…くそっ…
何もできなかった…何も…」
善は屈辱感と、あまりの自分の無力さに
地面にひれ伏せてしまっていた。
慰めかけるように、大悟が声をかける。
「善…そこまで落ち込むな…
あいつは紛れもなく強い
俺だって、正直死んだと思った…
俺も何一つできはしなかった…」
善は大悟と顔を合わせることなく、うつ向きながら言った。
「よくそんなこと平気で言えるな…
自分が情けないと思わないのか…?」
「確かに情けないこと言ってるかもな…
だが、俺達はチームだろ?
一人では勝てなくても、力を合わせて全員で勝てばいい」
「俺達が力合わせて、束になってかかって行ったところで…
あいつに勝てんのかよ…?」
「まず無理だろうな…今の段階では」
「だったらどうすりゃいいんだ!!
ジンだって…更に上にはジンだっているんだぞ!?」
冷徹に自らを分析し、本心を語り続ける大悟に、善はムキになる。
志保も大悟同様に、落ち着いた様子で言った。
「どうすればいいかなんて分からないけど…でも…
私達はまだ生きてる
生きてる限り、まだ可能性はある」
カッとなっていた善だったが、今度は暗い表情に変わり、ぼそりと呟く。
「可能性…か…
ほぼ0に近いけどな…」
善には明らかにいつもの威勢はなく、まるで別人のようだった。
変わり果てた善の姿に見かねて、志保は渇をいれた。
「どうしちゃったのよあんた…
今までのあんたなら…絶対弱音なんて吐かなかった!!
らしくないよ!善!!」
そんな志保の言葉も虚しく、善は黙りこみ、何も言葉を返すことはない。
大悟も心配そうに善を見つめる。
(善…失ったのは、レトインだけじゃなかったか…
心が折れ…
気持ちまで失ってしまったのか…?)
志保が呆れながらも、仕切り直して話を進めた。
「もう…!!
とにかく…東條が言ってたわよね
明日の22時 どうするつもり、善?」
「少し…考えさせてくれ…」
善の声にはまるで覇気がない。
「それがいい ゆっくり考えろ
どうせ罠だ…
何も無理に飛び込む必要性もない」
時間が必要と考えた大悟は、善にゆっくり考えるように促した。
用心深い志保も、納得する。
「そうね…いったいどんな仕掛けがあるか分からない…
よく考えましょう」
「でもこれじゃなめられっぱなしじゃん?
なめられっぱなしじゃ嫌だし…
相手をぎゃふんと言わせてやりたいし!」
「!!!
今の口調…もしかして……」
3BECAUSE
第51話
「魔性の女」
聞き覚えのある特徴的な語尾。
3人は一斉に後ろを振り返った。
そこにはやっぱり“あいつ”がいた。
「!?何だし…」
「キングのあの女!!
あんたいつの間にいたの!?」
そう。キングの氷の力の使い手。
“エーコ”だ。
「いつの間にって…
キングのアジトからここまで、ずっとあんたらの後ろにいたし」
「なっ、なんだと!?」
「あたしも死んだかと思ったし!
あいつ強すぎじゃん!」
どうやらエーコは、ずっと善達のあとをつけていたようだ。
ならば当然、エーコも東條の遭遇に立ち会っていたことになる。
大悟がエーコを睨み付けてガンを飛ばす。
「ずっと隠れてたのか!?
貴様、何しに来やがった!!」
その鋭い眼差しも、ものともせず、エーコは淡々と話す。
「何しに来たって…だってさ…
どうせいずれはキングとライジングサンは手を組むわけだし…
いても変じゃないじゃん?」
聞き捨てならないセリフに、慌てて善が反論した。
「ちょっと待て!!
一言も手を組むなんて、こっちは言ってねぇぞ!?」
「それにさ、あたし気に入っちゃったんだよね!」
「む、無視か…」
善の言葉も耳にいれず、エーコは自分の話を続けた。
エーコの性格は敵ながら、なんとなく分かる…
この女と張り合っても、単なる時間の無駄。
善は自分の主張を半ば諦め、渋々エーコに聞き返した。
「なんだ…その気に入ったってのは…?」
「ほら!あんたらとあたし、一戦交えたじゃん?
あん時にさ…
仲間を信じてるってやつ?
あたし感動したし!心打たれちゃったんだよね!!
さすがにレトインの存在には、あたしもビビったけど…」
以前、エーコとライジングサンは一度対戦している。
善はその時のことを思い出していた。
(あぁ…俺が最後トドメってとこで…
キングの黒崎嵐に阻まれて、そのまま決着つかずに終わったんだったな…)
結局、エーコとの対決はうやむやに終わっていたのだが…
その戦いの中で、エーコはライジングサンに感じるものがあったようだ。
エーコが気に入った理由はさておき、善はエーコにはいつもと違う印象を持っていた。
(てかこの子…こんなに話すやつだったのか…?)
以前会ったときよりも、随分と表情が明るく、よく喋る。
もっとエーコには暗い印象を持っていたが…
返答のない善に、エーコがしつこく話を続ける。
「だからいいじゃん!仲良くやればさ!
まぁだめって言われても、勝手についていくけど
ね
もうあたしからは逃げられないし!」




