第49話「無力①」
善達はレトインをおいて、去っていった。
後ろを振り返ることせず、前へと進んだ。
その後ろ姿をレトインはひたすら眺める。
まだ近くにいるはずの善の背中が、やたら遠くに感じた。
一人取り残されたレトインに、追い打ちをかけるようにヤコウが言った。
「はっはっは 一人きりになっちまったみたいだな」
レトインはヤコウを睨みつける。
「フン…一人きりはおまえの方だろ」
「なんだ?負け惜しみか?
邪魔者のおまえさえいなければ、橘善は俺達キングのものだ」
「善はそんなに甘くはない
おまえの思い通りに動きはしないぞ」
「どうかな…」
「まぁいい…もう俺と善は関係ない
すべては善自身が決めることだ」
そうレトインは言い、キングのアジトから立ち去ろうとする。
ヤコウはレトインを止めることせず、見送る。
慌てて黒崎が、ヤコウに声をかけた。
「トウマさん レトインはキングの敵…?
いいんですか…?ここで仕留めなくても」
「構わん あいつは相手にすると厄介だ」
結局レトインもアジトを離れ、アジトにはいつものキングの3人のメンバーが残った。
レトインの姿が見えなくなると、ヤコウは黒崎に忠告した。
「いいか嵐 俺達の敵はジョーカー・ジンだ
それを忘れるなよ」
「は、はい…すみません
しかし橘善…ヤツは我々の力となってくれますかね?」
「そのつもりだが…
ジンだって黙っちゃいないだろう」
「そうですね…必ず阻止してきます」
「あぁ…それより一番の問題は…
恐らくライジングサンのブレーンはレトインだったに違いない
そのレトインを失ったライジングサン…
橘善の考えはまだまだ子供だ
その善が判断を誤れば…
ライジングサンはいとも簡単に消滅するぞ」
3BECAUSE
第49話
「無力」
ライジングサンとキングが別れた、その頃…
ジョーカーには、早くもキングがライジングサンと接触をはかったことが伝えられていた。
手下がジンに質問を投げ掛ける。
「ジンさん…キングは一体何を考えているつもりでしょうか?」
「おおよそのことは察しがつく
キングがライジングサンを呼び出したか…
おもしろい ならばこちらも動くとするか…
おい!琢磨!!」
ジンは、とある人物を呼んだ。
すると一人の男が、めんどくさそうにフラフラとジンの前に姿を現す。
「ふぁ~ぁ…俺ですか?」
「出番だ!琢磨
橘善とその一味を抹殺しろ」
「俺かよ…だりぃな…
綾音のバカがミスるから俺がこんな目に…」
こう見えて、琢磨も四天王のうちの一人だ。
いよいよ四天王の2人目が動き出す。
琢磨が善達のところへ、渋々向かおうとした矢先、もう一人の別の人物がジンに声をかけた。
「お待ちください!ジンさん…
ここは私に行かせてもらえませんか?」
「“東條”…まだだ おまえはまだ早い」
“東條”
ジンに自ら行くと懇願した、ジョーカーの最重要人物。ジンの右腕とも言われている男。
東條も四天王のうちの一人だ。
東條はジンのまえで片膝をつき、頭をさげた。
「いえ…そうではありません
私に考えがありまして…」
「何?
考え?言ってみろ」
東條は顔をあげ、堂々とジンに答えた。
「はい
毎度、こちら側からライジングサンのもとに出向く必要性もないかと思いまして…
キングのように、こちらからおびき寄せてみるのはいかがでしょうか?」
ジョーカーの内部でも、中々ジンに直接、物申せる者も少ない。
東條はその数少ないうちの一人だ。
それほどまでに、東條は権力を持った人物。ジンの信頼も厚い。
ジンは東條の提案に賛同した。
「なるほど…キングと同じように呼び出すってわけか
それは名案だな」
「えぇ…どうかその役目を私に任せていただきたい」
「なぜだ?東條
わざわざおまえが出向く必要もないだろう
伝令なら他の者を遣わすぞ」
「いえ、そこは私が
気になるんですよね…
ジンさんが気にかける、その橘善ってのが一体どんな人物なのか」
「そうか…ならいいだろう!
橘善をおびき出す、その役目
おまえに任せよう!」
「ありがとうございます」
ジンと東條が話を終えると、一部始終を聞いていた琢磨が、気の抜けた声で言った。
「なんだぁ~…東條さんが善の相手してくれんのかと思ったよ…
結局相手すんのは俺かぁ…めんどくせぇなぁ…」
落ち込む琢磨に、東條が声かける。
「すまないな琢磨 決戦は明日
俺がおまえの得意なフィールドに持ち込んでやるからよ」
「へ~い…期待してますよ~」
そう言って、とてもやる気のない足取りで、琢磨はジンの前から姿を消した。
琢磨の体たらくを見て、東條は不安になる。
「相変わらずだな琢磨は…あんなんで大丈夫なんですかね?」
「あぁ…あいつは任務だけはきっちりこなす男だ
問題ない」
心配する東條に対し、ジンは琢磨を買っているようだ。
「そうですか…それならいいんですが…
では、私は橘善のところへ向かうとします」
「あぁ 頼んだぞ」
ジョーカー四天王が動き出したことなど、全く知ることのない善達。
善達はキングのアジトから、自分達のホームまで 歩いて帰っていた。
善は歩きながらブツブツと、ひたすら独り言を言っている。
もちろん考えていることはレトインのことだった。
レトインに対する怒りが溢れる…
(レトインの野郎…ふざけやがって…
あいつがジョーカーを作っただって?
なのに俺にジョーカーを倒せなんて…
わけわかんねぇよ!!)
レトインにはいくら文句を言っても足らなかった。
しかし、それ以上に……
(なんですべてを話してくれなかった…?
あいつがどーいう理由で、どんなつもりでジョーカーを作ったかは知らねぇが…
なんで俺達に話してくれなかったんだよ…?
俺達はチームじゃ…“仲間”じゃなかったのかよ!?
結局あいつはいつも肝心なとこは隠して話さないで…
やっぱりあいつにとって俺達って、そんなもんだったって言うのか…)
何より…善は悲しかった。
一人肩をおろして歩く善に、後ろをくっついて歩く、志保と大悟の二人には
善に何の声もかけることはできなかった。
もちろん二人も辛かった。レトインの本性には、驚かされショックを受けた。
けれど、誰よりもショックを受けているはずなのは善…
それを二人は分かっていた。
そんな善に、なんて声をかけたらいいか、どうしたらいいのか…
歩いている間、お互い会話はまったくなかった。
沈黙状態が長く続いたが、ようやく三人は自分達のホーム付近へと帰ってくる。
精神的に疲れきっていた善が、ようやく体が休めると思った、その時…
ライジングサンのアジトに何者かの人影をとらえる。
「ん…?誰だ…?誰かいるぞ!?」
善が何者かに気づくと、その人物は善の声に反応し、こちらを振り向いた。
「!!
なるほど…あなたが橘善ですか…」
「だ、誰だおまえは…」
面識のない人物に、善は戸惑ったが…
その人物の存在に大悟と志保が気づくと……
「東條!!
な、なんであんたがこんなとこにいるんだ…
(なぜこのタイミングでこいつが…)」
二人は一気に警戒体制をとった。




