第46話「晴れのち曇 そして雷雨③」
足を止めた善に、ヤコウがゆっくりと近づいていく。
「おまえの力で…おまえだけの力で、ジンを倒せると言うんだな?」
「そ、それは…」
「その自信がなければ、おまえの正義は口先だけにすぎん
ジンを倒せなければ、何も救えやしない」
悔しいが、何の反論もない。
まさにその通りだ。
ジンを倒すことができなければ、何も終わりはしない…
善の傍までヤコウは歩み寄る。
「もちろん今すぐ結論を出せとは言わない…
ゆっくり考え、俺たちと手を組むことを……」
善のすぐ隣まで来たヤコウは、そこでついに気づいてしまった…
気づいてはならない、“あの男”の存在に……
「!!!
お、おまえは…!!なぜ貴様がここにいる!!!」
先程まで冷静だったヤコウが、突然うろたえ始めた。
「ん?おまえって…?」
善が後ろを振り返り、ヤコウが睨み付ける視線の先を見た。
すると……
そこには外で待っている“レトイン”の姿があった。
「あぁ、なんだ レトインのことか…
レトインがどうかしたか?」
明らかにヤコウは、“レトイン”に動揺している。
ヤコウは眉をひそめて、大声を出した。
「レトインだと…?ふざけるな!!!
貴様!!そこで何をしている!
こそこそしてないで姿を見せろ!!」
そう言われたレトインは、隠れるのをやめ、堂々と姿を現した。
そして、後ろめたそうに一言呟いた。
「久しぶりだな…トウマ」
「えっ…?レトイン…
キングのリーダーとは顔見知りなのか…?」
善には理解できなかった。
キングのリーダーを、下の名前で呼ぶレトイン
二人は知り合いなのだろうか…?
レトインの声かけを、完全に無視し、ヤコウは善に激しく当たった。
「橘善!!こいつとは一体どういった繋がりだ!?」
「繋がりも何も… 俺の仲間だ
レトインはライジングサンの一員だからな…」
「なんだと!!?
だったらさっきの手を組むと言った話も、一切なしだ!!!
この男がいる限りな!!!」
突然、人が変わったかのように、態度が一変したヤコウ。善は戸惑った。
「お、おい!何なんだよ急に…
どういうことなんだよ!?」
あたふたする善を見て、ヤコウは察した。
「そうか…知らないんだな…
こいつがベラベラと素性を明かすわけがあるまい
…」
善は首を傾げた。
何も知らない善に、ヤコウが驚愕の事実を突きつける。
「知らないなら教えてやるよ 橘善
この男が一体何者なのか…
いいか?よく聞けよ!
レトイン…この男…この男こそが!!
ジョーカーを作った男であり、ジョーカーの創設者だ!!!」
「!!!
なっ、なんだって!?」
ヤコウの一言に、一同は騒然とした。
開いた口が塞がらない。
恐る恐る善はレトインに尋ねた。
「それは本当なのか…?レトイン…?」
「………」
当然の如く、レトインはいつものように黙り、下を向いた。
ヤコウは呆れ気味に、少し笑って善に言った。
「ジョーカーを倒そうとしているおまえが…
まさかジョーカーを生み出した男の肩を持っているとはな!!
とんだ馬鹿げた話だ!!」
善はこれほどまでにないくらい驚いていた。
しかし…
なぜか信じられなかった。
ヤコウのついた嘘なのではないか?
そう思った。
「はっ!何だよそれ!そんなの信じるかよ!
第一、レトインはジョーカーを作ったどころか、リミテッドでもねぇじゃねぇかよ!
なぁ…レトイン!!」
レトインがリミテッドなわけがない…
善は不思議とレトインと出会った頃からを思い返していた。
善がレトインの肩をポンと叩こうとする…
だが、善の手が止まった。
(待てよ…俺がレトインと会って間もない頃…
レトインはこう教えてくれた…
“リミテッドである者は、他のリミテッドである者の居場所が分かる”
と…だから俺はジョーカーから逃げられないんだって…
それは分かる…でも…その前に…
なんでレトインおまえは、俺がリミテッドであると分かったんだ…?)
善が疑心暗鬼にレトインに聞いた。
「いや…レトイン…直接おまえの口から教えてくれ…
おまえはリミテッドなのか…?
そして…ジョーカーを作ったのはおまえなのか…?」
下を向き続けるレトイン。沈黙が流れる。
その静けさの中で、突如
ゴロゴロゴロと、大きな音が鳴り響いた。
音と同時に、志保は額に感覚を感じた。空を見上げる。
「えっ…?雨…?」
空からは雨が降り注いでいた。
ピカッ!!ゴロゴロッ!!!
と、雨までもか雷まで鳴り響く。
先程まで晴れていたに関わらず、天候は一気に荒れ、空は曇り、雷雨となっている。
雨に濡れながら、レトインが顔をあげた。
「善…正直に答えよう…
俺はリミテッドだ
そして、ジョーカーを作ったのは…
この俺だ」
第46話 "晴れのち曇 そして雷雨" 完




