第45話「晴れのち曇 そして雷雨②」
その場所は廃墟と化していて、何もないところだった。
いくつか並ぶ建物の壁は破壊され、屋根はない。修復された痕跡もなく、放置されたままだ。
まともに住める家はなく、物資も揃わぬこの地には、恐らく誰も近づこうとはしないだろう。
辺り一体はおどろおどろしく、とても怪しげな雰囲気をかもし出しており
キングへの恐怖が相まって、より一層不気味さを増していた。
その廃墟が並ぶ中に、一ヶ所だけ、ぼんやりと明かりが灯されているのが見える。
「あそこに灯りが… そうか あそこか
キングがいるのは…」
善がその明かりに近づくと、ある人物が善達を待ち構えていた。
「来てくれると信じていましたよ」
「偉いじゃん!ホントに来たし」
黒崎と、エーコのキングの2人が、明かりを照らして待機していたのだ。
「さぁ…こちらへどうぞ リーダーがお待ちです」
黒崎が廃墟の奥へと案内する。
とうとうキングのリーダーと、対面する時が訪れる。
「リーダー!
ライジングサンのメンバーを、お連れしました」
黒崎が呼んだ先には、一人の男が立っていた。
(こいつが…“キングのリーダー”…)
「初めましてだな 橘善
俺がキングのリーダーを務めてる
“八光 灯馬”(ヤコウ トウマ)だ」
その男の第一印象はとても不気味だった。
なぜなら、全身を覆うように包帯が巻かれていたからだ。
服の外に見える肌は目の辺りだけ…
目以外がすべて、包帯で覆いつくされている。
全身を包帯でぐるぐる巻きにしているであろうことが、なんとなく分かる。
(気色悪い野郎だなぁ…しかし…
気をつけなければならねぇ…
こいつが“ライトリミテッド”、放射線を放つ男…
いつ仕掛けてくるか分からねぇ…)
善が警戒態勢の中、実は大悟だけが少しホッとしていた。
その理由は…
『もしかしたらレトインがキングのリーダーなのではないか』
そんな推測が大悟にはあったからだ。
だが、キングのリーダーを目の前にした今、その可能性は無くなった。
大悟がレトインの方に目を向ける
すると…
レトインは他のみんなとは違い、奥には入らず、壁一枚離れたところで待っていた。
『あの野郎!何一人だけ外で…!!』
と、大悟は思ったが、キングとは関わりがないことが分かり
そのぐらいならいいかと、許してしまうような気分になっていた。
警戒しているのが見てとれたのか、キング・ヤコウから話を始めた。
「よく来てくれたな…橘善
始めにひとつだけ言っておくが、俺達はおまえらとやりあうつもりはない」
「!!!」
「俺たちは同志じゃないか」
「同志だと…?」
意外だった。善の頭の中では、完全にイメージがついていた。
キング…そしてその組織のリーダー…
そいつは極悪な犯罪者で、“悪”であると…
まさかこんな友好的な感じで、話してくるとは思ってもみなかった。
善の気はまだ緩んでいない。
きつくヤコウに当たる。
「なぜ、俺達をここに呼んだ…?
まずそれを答えろ…!!」
「そうだったな…先にそれを伝えるべきだよな
分かった 単刀直入に言おう
手を組まないか?俺達キングと」
「!!!
なんだと…?ふざけるな!!」
「ふざけてなんかいないさ…
キング、ライジングサン…
その互いの敵であるのが“ジョーカー”だ
ジョーカー・ジン…
奴は強い 俺達だけの力では、正直かなわないかもしれない…」
善は初めキングの冗談かと捉えたが、どうやら冗談ではない。本気のようだ。
「てめぇ…勘違いするなよ!?
ジョーカーは確かに俺達の最大の敵だ
だがな、それ以前にキング!!
てめぇらも俺達の敵なんだ!!
味方だと思ったら大違いだぞ!!何が同志だ!!」
「そんなことは百も承知…
だったらこれならどうだ?
一度俺達と手を組み、ジョーカーのジンを倒す
そしてその後、俺達は敵同士に戻る…
その時になってから、キングとライジングサンの決着をつける…
これならどうかね?」
筋の通った話だった。
まずはジョーカーを倒したいという、キングの目論見がある。
しかし、善が納得いくわけがない。
「ど、どんな友好的な態度を取ろうが、俺は騙されないぞ!!
そうやって俺達を利用するんだな!?」
ヤコウは溜め息をこぼし、肩を落とした。
「そうか…
どうやらおまえは、よほど俺達キングのことを、信用してくれていないみたいだな…」
「当たり前だ!!くだらねぇ話で呼び出しやがって…
おい!みんな帰るぞ!!」
善は怒り、ヤコウに背を向け、外へ出ようとした。
志保は慌てて善を止めた。
「ちょっと善…いいのもう…?」
「これ以上何を話すって言うんだよ!!」
去ろうとする善に、入り口で腕を組んで立っていた黒崎が声をかける。
「まったく…分からない男ですね…
リーダーがあんなにも下手に出ているというのに…
優先順位を考えろって話なんですよ
本当に野放しにしてはならないのは、一体どちらかってね…
少し考えれば答えはすぐに出るはずだ」
冷静にたち振る舞う黒崎に、余計善は苛立ち逆上した。
「うるせぇ!知るかよそんなの!!」
今度こそ外へと出ようとする善に、ヤコウが言った。
「橘善…だったらおまえは…
ジンを倒すことができるのか?」
「!!!」
善の足がピタリと止まった。




