第42話「Second Because①」
大悟と志保が気を抜いていた、ほんの僅かなうちに、善とレトインの姿は消えていた。
「いないんだけど
善とレトインがどこにも」
「なっ、なんだと!?
さ、探せ!!早く善を探すんだ志保!!」
慌てる大悟を見て、理由は分からないが志保も二人を探し始める。
(別に決まったわけではない…
だがレトイン…貴様は信用できん…
何が起きても不思議ではない…
どこ行った…どこにいる?善!!)
3BECAUSE
第42話
「Second Because」
「志保、いたか!?」
「いない…どこにも…」
二人は必死になって、辺りをくまなく探したが、善とレトインの姿は見当たらない。
そこで志保が閃いた。
「そうよ!善のリミテッドの力を辿ればいいのよ!
あいつはまだ、リミテッドの力の放出を抑えられないはず!」
「そうか!その手があったか!!」
リミテッドとは、意図して力を使わなかったとしても
無意識のうちに、常に体からリミテッドの力を放っているのである。
熟練者であれば、その力を抑えることができる。
それは経験によって自然に身につくものであり、そのため時間が必要である。
そして、リミテッドの者は、他者のリミテッドの力を感じ取ることができるのだ。
ゆえに、まだ経験の浅いリミテッドの者は、熟練者のリミテッドから逃げ隠れできない。
志保の案に大悟は飛び付き、さっそく善のリミテッドの力を探りはじめる。
「善はまだリミテッドになって日が浅い
それほど遠くには行っていないはずだ
これであいつの居場所が…
何……!?」
「どうしたの…?
!!これは…
(善の居場所が分からない…?
善はリミテッドの力の放出を抑えられないはずなのに…)」
大悟は膝からガクリと落ち、地面に手をついた。
「バカな…
この短期間のあいだに、力を抑えることを可能にしてしまったというのか!?
なんて才能…素質だ…善…」
大悟は二つの意味でショックに陥っていた。
ひとつは善のリミテッドとしての素質の高さ。
そして、もうひとつは…
これで善の居場所は完全に分からなくなってしまった。
大悟が落ち込む意味を志保は察する。
「これで…探す手はないわね…」
「あぁ…こうなったらもう、片っ端から探すしかない
(善は抑制方をマスターしたのか…?
それとも善はもうすでに……)」
不安は募るばかりで、大悟はどんどん嫌な方向に考えだしていた。
まったく状況は変わらずのまま、それから20分が過ぎた。
ますます大悟には焦りが見える。
いまいちピンと来ないながらも、志保も必死になって探している。
「どうだ?志保 見つかったか…?」
「いえ、どこにも…」
「くそっ…どこに行きやがった…
どこにいるんだよ!!
善…いるなら返事しやがれ!!!」
大悟が怒りに身を任せ、大声を出した。
すると、思わぬ方向から声が帰ってくる。
「えっ、何!?
なんか言ったか?大悟?」
大悟の後方から、聞き覚えのある声が聞こえる。
振り返ると……
「なんだよ大悟
バカみてぇにデカい声あげてよ!」
善だ。何事もなかったかのように、善の姿がそこにはあった。
善だけではなくレトインもいっしょに、二人並んでこちらに向かってゆっくりと歩いている。
「善!!!」
善の姿が確認でき、大悟は再び大声をあげて名前を叫んだ。
安堵の表情を見せる大悟に比べ、志保はホッとしたどころか、半ば呆れぎみだ。
「なによ大悟…普通に2人とも帰ってきたじゃない…」
ゆっくりと歩いてくる善達を待ちきれず、大悟がこちらから駆け寄る。
「心配したんだぞ!!善!!」
「ん…?心配したって…
俺もガキじゃねぇんだからよぉ…」
不服そうに善は答えるが、大悟は善を突き詰めた。
「今までどこに行ってたんだ!!探したんだぞ!?」
「ん~……
どこって…なぁ…レトイン…」
返答に困り、善はレトインの顔を見たが、レトインも回答に困り
「あぁ……」
と、一言だけ返事をするだけだった。
遡ること、数十分程前
『あぁ~…疲れた…ジョーカーにキング…
これじゃ体がもたねぇよ!!』
キングの黒崎とエーコが姿を消すと、善は大の字になり、地面に倒れこんだ。
その寝ている善のもとに、レトインが静かに近づき、小さい声で囁く。
『善……』
『えっ?なんだよレトイン…
よく聞こえねぇよ』
善はなぜこんなレトインが小言で話しかけるのかが謎で、少しイライラした。
だが今は怒る気力も残ってなく…
黙って耳を傾けるしかなかった。
『覚えているか?あの場所を』
『あの場所…?』
『おまえがジョーカーを倒すと誓った、あの海が見える場所だ』
“あの海の見える場所”
そこは善とレトインが初めて打ち解け、善がジョーカーと戦う覚悟を決めた
善には思い入れのある場所だ。忘れるわけがない。
『あぁ…あの場所か…もちろん覚えてるよ
あれは確か志保がまだ敵で、倒したばっかの時だったよな
その場所がどうした?』
『今からそこに行くぞ』
『えっ!?今から?
こっからじゃけっこうあそこまで距離あんぜ?
ここじゃだめなのかよ?』
『だめだ 今すぐ行くぞ』
あの場所にやたらと拘るレトイン。
ここでも言い争う気力もなかった善は、レトインの提案を受け入れるしかなかった。
『ったく…しゃあねぇなぁ…
おーい!大悟!
ちょっと俺らしばらく離れっからよー!』
善は大悟に声をかけたのだが、大悟は自分の世界に入っているのか、まるで声は聞こえていない様子。
『なんだよ…聞いちゃいねぇよ…
志保は疲れ切ってるし…まぁいっか!
行ってくっからなぁ』
結局善とレトインは、志保と大悟に気づかれることなく、ひっそりと“あの海の見える場所”へと向かっていた。
そして、だいぶ時間はかかってしまったが、ようやく目的の場所まで辿り着いた。
不思議に思っていた善が、開口一番にレトインに尋ねた。
『わざわざこんなとこに呼び出してどうしたんだよ…』
レトインがゆっくりと腰を下ろし、地べたに座りこむ。
『おまえに話があってな』
『話…?』
善もレトインにつられるように、腰を下ろした。
レトインは善の顔を見ることなく、遠く海の方を眺めながら話しかけている。
『言ったよな 最初に善に
おまえにはやらねばならない理由が“3つある”と』
『あぁ…俺がジョーカーを倒さなきゃならない、訳わかんねぇ理由ってやつだろ』
『そうだ 今から話すことが、その2つ目の理由だ
おまえ自身は気づいていないだろうがな…
おまえは不思議な力を持っているんだ』




