第34話「一度目の終わり①」
最後の希望である、志保を失ったライジングサン。
そんな一同に、もう望みは残されていなかった。
(終わるのか…?俺達…
どうすれば…どうすればいいんだよ!!!)
3BECAUSE
第34話
「一度目の終わり」
退屈そうにしながらも、綾音はギターを手に取った。
「“怒りのメロディー”
これでもう詰みさ
あとはおまえ達が勝手に潰しあうだけ」
メロディーが流れると共に、善と大悟の体が動き出した。
また同じことの繰り返し。ふりだしに戻ってしまった。
「くそっ!!!」
善がイフリートソードで大悟に攻撃する。
大悟が攻撃受け止めながら、善に問いかけた。
「なぁ…善…
終わるのか…?俺達…」
少しの間をおいて、善は静かに答えた。
「そうなのかもな…」
あの超プラス思考、負けることを考えない善が、ついに弱音をはいた。
その弱った善の姿を、レトインは不安そうに見つめる。
(善……
折れるな…おまえが気持ちで負けるな…
おまえがそんなでは…)
ライジングサンの中での、一番の実力者は大悟だ。
総合的に考えて、大悟が一番強い。
しかし、ライジングサンにおいて橘善という男は、大悟とはまた違う、別の強さを持っていた。
どんな不利な状況でも、決してあきらめない善がいたから、ここまでこれた。
志保の奮闘や、レトインの力はもちろん大きかったが、善の気力が仲間を底から支え続けてきた。
善はそんな特別な存在だったのだ。
「善…おまえ…」
大悟は今になって気付いた。
なぜ先程善に、あんな事を聞いたのか。何を大悟は善に求めて言ったのか。
こんな最悪の状況下でも、善の口から
“勝てる”
その一言を聞きたかったからだ。
そんなの気休めにすぎないのかもしれない。
しかし、大悟は求めていた。
善の何の根拠もない“希望”の一言を…
大悟はここで悟った。
俺達はもう終わる……と。
「なかなかしぶとい奴らだね!
じれったいな 一気にかたをつけて終わりにしてやろうか!!」
気が抜けて、ボーッとしていた大悟の耳にそんな声が聞こえた。
もはや綾音が何をしようとも、どうだっていい。
勝ち目はもうないのだ。
「この使ってない方の左手に、また力を溜めて…
トドメの“ソニックブーム”で終わりだよ!!ライジングサン!!」
怒りのメロディーで、あとは勝手に潰れるはずが、綾音は待ちきれずしびれを切らしている。
綾音が左手に力を溜め始めた。
(終わったな…完全に…)
大悟は負けを覚悟し、死を受け入れた。
善は半ばあきらめながらも、綾音の攻撃をなんとか阻止しようと試みるが
綾音が反対の右手で、怒りのメロディーを奏でているためにどうすることもできない。
「こんなもんで十分かな
思ったよりは楽しめたよ…」
力を溜め終えて、綾音が左手で弦を弾こうとする。
この左手が弦に触れたとき…
この時こそが本当の終わり、善達が“死”を迎える瞬間だ。
「死ねぇぇぇ!!!」
綾音が左手で弦を弾こうとする。
左手が弦にどんどん近づいていく。
弦に手が触れる……
その直前の事だった。
バチバチバチン!!!
“何”かが悲鳴をあげるように、大きな音をあげた。
死を覚悟し、自然と目を瞑っていた善が、ゆっくりと目を開ける。
まだ“終わっていない”
善達はまだ生きている。
「こ、これは……」
「どういうことなんだよ…なんなんだよこれ!!!
何が起きたってのよ一体!!!」
綾音が張り裂けるような大声で叫んでいる。
それも無理はなかった。なぜなら…
綾音の手にするギターの弦が、全て切れていたからだ。
先程まで何事も問題なく弾いていたはずなのに、
一瞬にして全部の弦が切れてしまっていた。
「弦が全部切れてやがる…はっ、ははっ!
バカな野郎だぜ!粗末にギターを扱ってるからこんな事になっちまうんだよ!!」
形勢は一気に逆転した。
さっきまで死にそうだったはずの善が、またいつものように強気に出ている。
「そんな…ありえない…
戦いに備え、しっかり準備してきたのに…
それに一本どころか、全部の弦が一気になんて…そんなのありえるわけが…」
何が起きたのか理解できず、綾音は立ち尽くしている。
「はっ!日頃の行いがいけないんじゃねぇか?
ついてなかったな!!」
(ついてない…?これが偶然か?
いや、今のは…)
偶然で片付ける善に、大悟は何かに引っ掛かった。
しかし、今はそれどころではない。
ギターを失い、取り乱している綾音。
今こそがチャンスだ。今は攻めるべきだ。
一旦、考えるのは止めにして、大悟は再び戦いに集中した。
好機を逃すまいと、綾音のもとへ向かおうとする大悟だったが
いち早く反応していた善が、すでに綾音に向かい飛びかかっていた。
「散々俺達をおちょくりやがって…!!
くらいやがれ!!」
今までのうっぷんが溜まっていたのか、憎しみ込めて、善はスキだらけの綾音にイフリートソードで攻撃する。
「ぐっ……」
今の一撃は、この戦いで初めて善達が、まともに綾音に与えた一撃だった。
「よっしゃ!!」
まさかの出来事が起こり、大悟も正気を取り戻している。
大声で善に向かって叫ぶ。
「今だ!!善!たたみかけろ!!」
「あぁ!やつは戦う術を失った!
俺達の大逆転勝利だ!!」
そう善がはっきりと勝利宣言をすると、それに対し綾音が小さな声で言い返した。
「甘くみるなよ…四天王を、甘くみるなよ!」
「何…!?
ギターが使い物にならなくなった今、てめぇに何ができる!?」
余裕の表情で、油断を見せる善にレトインが忠告した。
「下がれ!!善!!
またヤツが何かをしでかしてくるかもしれんぞ!?」
「はっ!どーやってだよ?
もうこっちのもんだぜ!!」
それでも善は攻めに行く。
イフリートソードを振り上げた。
「終わりだ!!くらえ!!」
ジョーカー・四天王の綾音。
そこまで甘くはない。
善から重い一撃をもらい、綾音は冷静さを取り戻していた。
善が剣を振り下ろそうとした時
綾音がバカでかい大きな声をあげた。
「甘いんだよ!!!」
綾音が叫んだあと“何か”が起こった。
大悟は目を疑った。
「!!!
どういうことだ…この光景は…まるで…」
大悟が目にしたもの、大悟が見た光景は…
“数時間前と全く同じ”光景だった。
攻撃をしかけようとしていたはずの善が、地面に倒れ込んでしまっていたのだ。




