表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3BECAUSE  作者: Guru
29/131

第29話「残されたメロディー②」

四天王・綾音は屈辱だった。

遥か格下の志保に、自分の攻撃が効いていない。



「志保だって!?

何であんたみたいな弱っちぃやつが、私の能力を…」



その言葉を聞いたレトインは、強気で綾音に言った。



「フン 志保も初めっから、貴様の雑音に何の影響もなかったぞ」



「な…なんだって…?そんなバカな…!!」



取り乱す綾音。


その姿を一切目にすることもなく、志保はとこか遠くを見つめながら

静かにぼそぼそと小さな声で喋り出した。



「聴こえない…私には聴こえない…


私の耳にはいつも流れてる

忘れることのないメロディー…」



「……?」



「“川”の音が…“川のせせらぎ”が!!!」



微かに聞き取れた謎の言葉に、綾音は疑問が残る。



「川…ですって…?


いったい何の話よ!何言ってんのよこいつ!」



志保は相変わらず綾音にかまうことはしない。

耳を貸すことなく、話を続けた。



「時には激しく…時にはゆっくりと…

私のメロディーは私にはある


川が…川の流れる音が…それが私のメロディー」



「!!!」



“川の流れる音”



善はこの時、志保が何を言っているのかピンと来た。



「忘れないよ…“お父さん”…

私はいつまでたっても覚えてる」



川…

それは志保がリミテッドとなった、自分の父が死ぬこととなってしまった場所である。



志保の記憶は蘇る。

そこに映るのは決まって同じ場所、同じ場面。


志保がリミテッドとなる、川に溺れてしまう場面だ。



志保の耳には川の音が流れる。

思いだしたくもない、とても苦い思い出。


頭の中には、決して忘れることのない記憶、そして“音”。



いつまでたっても消えずに残るこの音は、とても辛い思いをし続けることとなるのであろう…




しかし、志保は違った。


志保にとってこの音は、実は自分の好きな音となっていたのだ。



なぜなら、この音が流れている時は、あの出来事を思い出してる時間である。


それは即ち、父を思いだしている時間。




“愛”がなければ成り立たない“リミテッド”




この音が流れている間は、最愛の父に会える時間。

父を想える素敵な時間なのだから。




志保は四天王・綾音に向かって、強く言った。



「私は惑わされない あんたなんかを、私の大切な時間に踏み込ませたくない!!


私の時間を…私のメロディーの邪魔をしないで!!!」



「な、何を生意気な!!志保のくせに!!」



強い気持ちを持つ志保を見て、レトインが善と大悟に向かって言った。



「なっ 善に大悟


“自分を信じろ”って意味が分かったろ?」



志保の姿を見て、善も理解することができた。



(自分を信じろ…


それって、自分という存在…自分の持つ世界…


“自分”というものを尊重しろってことだったのか!!)




攻撃が効果ないと判断し、四天王・綾音は新たな動きをとる。



「効かないと言うのなら…これならどう!?」



そう言うと、綾音は先程までとはまるで違った音楽を奏でだした。



「志保…あんたを見てると、無性に哀れみたくなってきちゃうのよね…


その瞳に写る…哀しい目!!

“哀しみ”のメロディーよ!!」



怒りのメロディーとはまた別の、哀しみのメロディー


どうやら綾音はいくつもの音色を使い分けることができるようだ。



メロディーが変わった途端に、善と大悟の体に異変が起きる。

目から突然、涙が溢れてくる。



「う…ううっ…なんだかすげぇ哀しいぜ…

涙が…なぜだか泣けてくる…」



「なぜ涙が溢れだしてくる…どうなってるんだ俺の体は!!」



またもや音の術中にはまり、善と大悟の二人はもろに影響を受けている。


しかし、それに比べて志保は…



「無意味よ!なんであろうと、私には効かない!!」



怒りのメロディー同様、まるで効いていない様子だった。



「チッ……」



志保の目を“哀しい目”と呼んだ綾音に対し、善が反発した。



「効くわけねぇよな?志保

志保の目が哀しい目だって!?


志保の瞳の奥にあるのは…



“希望”だ

志保の目は輝いてるっつーの!!なぁ、志保!!」



「バカね…かっこつけて言ってるつもり?


涙流して、泣きながらそんなこと言われても困るんだけど」



「だ…だって…


感動だ~~!!!」



善は泣いた。とことん泣いた。




(頼むぜ…志保…

おまえしかもういねぇんだ!!


おまえは俺達の“希望”だ)




志保の奏でるメロディーは…


普通の人であるならば、消しさってしまいたい音なのであろう…



しかし、このメロディーは、もしかしたら


父親が残した、愛する娘への最後のプレゼントだったのかもしれない。






第29話 “残されたメロディー” 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ