第17話「大悟②」
(ごめん…ごめん…ねぇちゃん…
俺…俺…ねぇちゃんとの約束守れなかった…
ねぇちゃんは自分の命を俺に変えてまで、俺を守ってくれたのに…
俺は…俺は妹を守ることはできなかった…
ごめん…ねぇちゃん…)
大悟は地面に這いつくばりながら、涙を流していた。
その光景を見て、善は何かを悟った。
「大悟…自分を責めているのか…?
妹を守れなかった自分を」
「………」
言葉を返すことをしない大悟に、善は強く言った。
「立てよ 大悟
そんなとこで座り込んでねぇでよ
立て…立ち上がれよ!!」
大悟は地面に握り拳を突き、悔しがる。
「俺は…許せないんだよ…
ジン以上に、妹を守ることができなかった自分を!!」
「だったら…
いいじゃねぇか…許さなくても…」
「!!!」
「おまえがいくらそこで泣こうが、わめこうが、妹はもう二度と帰ってきやしねぇんだよ!!」
「!!!
ちょっと善!!あんた何てことを…」
善の発言に、慌てて志保がかばった。
「大悟が今どれだけ辛いことか…
大悟はさっきすべてを知らされたのよ?
それなのに、そんなこと言わなくても…」
「いや、こいつはそんな弱ぇやつじゃねぇよ
こいつは妹のために、何もかもを背負いこんだ
ジョーカーの一員になること…
どれだけ辛い日々を過ごしただろうか…
こいつの覚悟は、並大抵のもんじゃねぇ!!」
善は大悟の覚悟を知るとともに、大悟の芯の強さに気づいていた。
こんなことでつまずくような男でない。
だから善はどこまでも大悟に厳しい言葉を浴びせ続ける。
「悔しいんだろ…?許せないんだろ?
自分を…ジンを!!
だったら立てよ
そんなとこで、うずくまってねぇでよ!!」
善の叱咤を受けた大悟も、さすがに黙ってはいられない。
善に歯向かうように大悟は叫んだ。
「妹はもう帰って来ないなら…
それなら…それなら俺はどうすりゃいいんだよ!!!」
「終わらすんだよ 何もかもをよ」
「終わらす…だって…?」
「ジョーカーを…ジンの野望を!!
ヤツが何考えてんのかは知らねぇがよ…
おまえ以外にも、まだまだいるんだろ?
ジンに捕らえられて、ジョーカーの一員になってるやつがよ
いっしょに…俺たちといっしょに、ジンを倒そうぜ!
その怒りや悔しさを、ジンにぶつけてやるんだ!!」
「俺が…ジンを…?」
「そうだ!きっとその方が、おまえの姉や妹も、喜ぶはずだ
今のおまえの姿が…
見てて一番辛いと思うぜ…?」
「!!!」
考えても見なかった…
俺は妹の命を助けることしか考えてなかった…
しかし、そのことによって、俺はジョーカーの一員となり、数々の犯罪行為をしてきた。
この今まで俺のやってきたことは、果たして妹が望んでいたことなのか?
そこまでしてでも、自分の命を救ってほしかったのだろうか?
姉と約束した
『妹を守ること』
例えいくら妹の命を守り続けてたとしても、堂々と胸張って俺は言えるのだろうか…?
果たしてこの俺の行動が、姉との本当の意味での約束を守ることへと繋がっていたのだろうか…?
俺は今、善によって気づかされた。
俺が今までやってきたことは…
自分の心の奥底で言い続け、信じ続けててきたことは…
間違っていた。
俺の倒す相手は、この橘善なんかじゃない…
二階堂 仁だったんだ。
「こんな俺を…情けない俺を…仲間に誘ってくれるってのか…?」
「あぁ!もちろんだ!
だって見てみろよ!
おまえみたいに前までジョーカーだった、志保もいるんだぜ?」
「そうよ!大悟!」
(もう!借りは返すって言ったけど…
誰も仲間になるなんて一言も言ってないんだけど!
って、そんなこととてもじゃないけど言えない状況ね…)
レトインは、また一つ善に驚かされた。
(こいつ…志保だけじゃなく、大悟まで…
またもやジョーカーの一員を改心させようと言うのか!?)
先程まで泣いていたはずの大悟から、笑みがこぼれた。
「嬉しいよ…橘善…
こんな俺を誘ってくれるなんて… 」
しかし、そんな大悟の笑顔もすぐに消える。
「でも…でもよ…
やっぱり俺、約束を破るやつは嫌いだからよ…」
「えっ…?それって一体どーいう意味…」
「ジンはとてもじゃねぇけど、許せねぇやつで…
むかつくやつだけどよ…今回の任務…
あいつと“約束”しちまってるわけで…
だから…だから…
橘善
俺はおまえを全力で倒す」
「!!!
こっ…この…分からず屋が!!
そんなもん破棄しちまえばいいんだよ!!」
「これを破ったら、結局は俺はジンと一緒のクソ野郎だ…
俺は、約束は必ず守る」
志保が呆れてため息をつく。
「はぁ~…バカな男」
呆れた志保に対し、善は笑って答えた。
「はっ!気に入ったぜ!あんた!!
それでこそ本物の漢だぜ!!」
「覚悟しろよ…橘善!!志保!!」
第17話 “大悟” 完




