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3BECAUSE  作者: Guru
16/131

第16話「大悟①」

中学1年の時。家族全員で旅行に出掛けた。


父、母、姉、妹、そして俺の5人家族だ。



中学生になり、思春期にさしかかると、おもしろいもので…


どうも家族といっしょに出かけるのが恥ずかしくなり、次第に兄弟ともあまり口を聞かなくなってくる。


女の姉妹の中に、男一人なら尚更だ。



そんなあまり乗り気ではない、嫌々な気分で行った家族旅行ではあったが


姉や妹は、俺とは違って楽しそうで、旅行を満喫している様子だった。



こんなどこにでもよくありそうな、ごく普通の家族旅行…


だけど、その旅行の帰りに事件は起きたんだ…






BECAUSEスリービコーズ


第16話

 「大悟」






旅行の帰り道。父親が車を運転している。


山道に差し掛かり、急な坂を下り続ける。



ガードレールの向こうは、断崖絶壁。

険しい山道だった。



家族の皆は、怖い気持ちを半分持ちながらも


辺り一面に広がる、山々の景色を楽しんでいた。


しかし、そんな美しい景色を打ち消すような雨が、突如降り注いできた。



雨で滑る路面に注意しながら、父はハンドルを慎重にきる。




その時だった。


険しい山道、雨で滑る路面。


いくつもの悪条件がそろう中で、さらに事態は悪化した。



地震だ。地震が起きたんだ。

割と揺れは大きい。


そして、その地震により、土砂崩れが起きた。雨による影響も大きかったのだろう。



偶然が偶然を呼び… 不運は重なる。

走っていた車が、土砂崩れに巻き込まれる。


車はガードレールを突き破り、崖へと落っこちた。



かなりの高さから落ちたのだと思われる。

崖へ落ちた衝撃で、俺は意識を失ってしまったんだ…


それから、どれくらいの時間がたったか分からない。


目を覚ますと…俺の目の前には姉がいた。



『ん…?ねぇちゃん…?


痛っ!!』



頭に激痛が走った。頭をふと触ってみると…


手にべっとりと血がついた。

崖から落ちた時に、頭を損傷したようだ。



『大丈夫!?大悟!?』



『い、いてぇけど…

ねぇちゃんだけ…?他のみんなは…?』



『分からない…みんなバラバラに飛ばされてしまったみたい』



どうやら崖から落ちたときに、その勢いで俺たちは車から吹き飛ばされたみたいだ。


父、母、妹の姿が見当たらない。



『そ、そうか…ねぇちゃんは…?

ねぇちゃんはケガはしてねぇか?』



『私も体を強く打ったみたい…

少しは体を動かすことはできそうだけど…』



『そうか…ならまだよかった


俺は体中痛くて、歩けそうにねぇや…』



『大悟……』



『ねぇちゃんは動けるんだろ?


俺のことはほっといていいから、ねぇちゃんは早く誰かに助けてもらってくれ』



そう俺は言ったのだが、姉は一向に、ここを離れようとはしない。


それどころか、体を動かすことのできない俺をまえにして、姉は地面にしゃがみ込んだ。



そして、姉は黙って俺の手をそっと握った。



『なっ!何すんだよ!恥ずかしいだろ!

いいから早く行けよ!』



きっとこの時、姉には分かっていたのだろう。


俺の命はそう長くないことを…



『大丈夫よ 大悟

私がそばにいるから…』



『そばにいるからって…

いいって…一人で大丈夫だって』



『強がらないの

あなたは私が守るのよ…約束したんだから』



『えっ?約束…?』



『そう…あなたがまだ赤ん坊の時にね、お父さんとお母さんと


おねぇちゃんの私が、弟の大悟を守るのよ って…』



『何バカ言ってんだよ…そんなの子供の頃の約束だろ?

父ちゃんも母ちゃんも覚えてないって』



『そんなことない

いい?大悟…約束よ…これだけは約束してよね…』



『……?』



『あなたにも守るべき相手がいる…


妹は大悟が守るのよ』




大悟の姉が、幼き頃に交わした父と母の約束。


その約束は、中学生になっても忘れることはなかった。


そして弟である大悟と、自分が両親と交わした同じ約束を、この時交わした。



『守るって…俺にはそんなの無理だよ…』



『無理じゃない あなたにならできるわ


だってあなたはお兄ちゃんなんだから』



『何言ってんだよ…いい歳こいてよ…


なんだかさ…こうやってねぇちゃんと二人っきりで喋ったのって、何年ぶりだろうな?』



『ふふっ そうね 何年ぶりかしら』



この時見せた、ねぇちゃんの笑顔。


これがねぇちゃんの最後の笑顔。



このあと、もっと何か話した気がする。


昔の思い出…楽しかったこと…二人でよくケンカしてたこと…


でも正直、今となっては、この時何を話したかは全く覚えていない。



すでに俺の意識は、もうろうとしていたからだ。

覚えていられるはずはなかった。


しかし、そんな状態でも、はっきりと覚えていることが、ひとつだけある。


俺が意識失わないようにと、声をかけ、強く手を握っていてくれた姉。




握っていてくれた、ねぇちゃんのその手は


なんだかとても温かった。



今でもそれだけは、不思議とよく覚えている。




そして、とうとう俺は力尽きた…

死を迎える。



だが、この時に死ぬはずだった俺の代わりに姉が死に…



俺はリミテッドとなった。




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