第129話「心の叫び②」
ジンはダッシュで善に近づき、怒りの感情を込めながら、思いきり蹴りにかかった。
ジンの動きのキレは幾分と落ちていて、攻撃はバレバレであったが…
善は微動だにせず、攻撃をかわそうとしなかった。
善はジンの攻撃をもろに食らった。
「善!!!
あいつ今の避けれたんじゃ……」
善の不可解な動きに大悟が気づくも、善は何事もなかったかのようにして、立ちあがる。
そして、先程まで睨み付けるような鋭い眼光をしていた善が
打って変わって、ジンを哀れむような表情を見せた。
「ジン……
本当は後悔してるんだろ?
“レイ”のこと」
「なに!?」
善はまるでジンのすべてを見透かしてるかのように語り始めた。
「おまえの家は裕福だったみたいだな
金さえあれば何でも手に入った
だから分からなかったんだ
金で買えないものの手に入れ方を」
「!!!
なぜ貴様がそんなことを……
(なぜ昔の俺のことを知っている?
こいつの言う通り、本当に中にはレトインがいるとでもいうのか……?)」
「そして生まれて初めての恋に敗れ、おまえはすべてをめちゃくちゃにした!
今まで作り上げてきたものをすべて壊した!!
それにも関わらず……レトインだけは生かした」
ジンは善の声を遮るようにして、怒り狂いながら大声を出した。
「生かしてやったんだ!!!
過酷な人生をあゆみ、もっともっと悲惨になるあいつの姿を見てやろうと思ったんだ!!」
怒りを拳に変え、ジンは善を殴りかかる。
またしても善は、かわす素振りを見せない。
善にそんな余裕はないはずだ。善は賭けに出ていた。
「何やってんだし善!!避けろし!!」
「そうよ さっきは一瞬で勝負がついてしまったのよ!?
命の保証はない!危険すぎる!!」
善の暴挙を止めるべく、エーコと志保が言い聞かせるも、善は全く耳を貸すことをしない。
「レトインが言ってるんだ
ジンを止めろと
ジンを助けてやってくれと…」
「何言ってやがる?いかれちまったのか?
意味分かんねぇんだよてめぇ!!」
善の言動が、いちいちジンの癇にさわる。
無抵抗の善にジンは容赦なく攻撃した。
「はぁ…はぁ…気味悪いんだよ…てめぇ…」
善はその場で倒れたが、再び立ち上がる。
何かに取りつかれたように、善はひたすら話を続けた。
「本当は………
怖かったんだろ?自分が
自分の持つ、リミテッドの力
そして選び抜かれたエレクトの力が」
「!!!」
「おまえは唯一同じ気持ちを共有できるレトインを殺すことはできなかった
一人になるのが寂しかったんだろ?
俺にも分かるぜその気持ち…
俺もこの力の存在を知ったときは、怖くて否定したくて逃げ出した…」
善だけではない。志保や大悟にエーコ。
全員にもその気持ちはある。
エレクトの力を持つ、善とジンは尚更のことだろう。
「本当はこの戦いも、何かと理由つけてまたレトインだけは生かすつもりだったのか?
全部レトインには分かってたみたいだぜ?おまえの気持ち」
志保と大悟の、元ジョーカーの二人は驚いた。
ジンにそんな“普通の人間“らしいまともな感情があったことに。
「そんなおまえの心の中で叫ぶ声、助けを呼ぶ声をレトインはしっかりと受け止めていた
レトインは今までずっと必死でおまえを助けようとしていたんだ!!」
果たしてレトインの推測は当たっていたのか?
その真相は定かではないが、ジンはだんまりを決め、唇を噛み締めている…
先程とは違い、今度はジンに善の声が響いていることだけは、誰がどう見ても分かった。
善のがむしゃらな行動と、レトインの気持ちの代弁が
深い闇に閉ざされ続けていた、ジンの心を少しずつ動かしていた。
ジンは怒りを爆発させ、声を張り上げることで自分をごまかした。
「てめぇの妄想につきあう筋合いはねぇんだよ!!
俺は助けなんか求めちゃいねぇ!
俺は俺のやりたいようにやってきただけ!見当違いもいいとこだ!!
だがな……」
熱くムキになっていたジンだったが、急に静かになり、一呼吸おいてから小さい声で言った。
「本当にレトインの意志が貴様の中にあるかのようだ…
いかにもあいつが言いそうなことだ」
「あぁ 本当にいるからな俺の心の中に
じゃなきゃ俺がおまえのそんな気持ち分かるはずもねぇ」
頑なに否定し続けていたジンが、レトインの存在を認めた。
ジンは善の言葉を受け入れ、おとなしくなったかに思えたが、やはりこれだけではおさまらない。
またスイッチを入れ直し、ジンは威勢を取り戻す。
「俺がどう思ってようが、レトインがどう感じてたとか…そんなことどうだっていいんだよ!!
ここで俺がてめぇを殺せばすべては終わり!何もかも関係ありやしねぇ!!」
ジンのもっともな意見に、善は頷いた。
「その通りだ
おまえの心の叫びも本心も…レトインのおまえを救いたいという願いも!
俺がおまえを倒さなきゃ…
俺が勝たなきゃ意味がないんだ!!!
もう終わりにしよう 全部
親父のためにも、レトインのためにも
おまえを倒して俺はこの先を生きていく!!!」
ライジングサン・善VSジョーカー・ジン
あらゆる思いが入り交じる この頂上決戦は
結末を迎えようとしている。
第129話 “心の叫び” 完




