第115話「罪悪感②」
一方、善・レトインVSジン
大悟とエーコが黒崎に苦しむ中、こちらも依然として不利な状況が続いていた。
ジンのペースで戦いは進む。
「サンダーボルト!!」
レトインが雷の攻撃を放つ。それと同時に槍でジンを突き刺しにかかる。
だが、ジンはいとも簡単に雷をかわす。
それと同時に槍を両手の火の剣で受け止めた。
「がらあきだ!ジン!!」
両手の塞がったジンに善は斬りかかるが
ジンは自分の足に火の力を宿し、飛びかかってくる善に蹴りをかました。
善の体に足が触れると炎は爆発し、善の体は吹き飛ばされた。
「ぐわぁっ!!」
「どこががらあきだ!
がらあきなのはずっとおまえの方だろ 橘善」
この戦いが始まって、ジンに何度ダメージを与えることに成功しただろうか。
レトインは数回ジンにダメージを与えることはできたが、それでも致命傷には至らず。
それに比べて善は、まだ一撃もジンに攻撃を与えることはできていなかった。
(くそっ…完全に俺足手まといになってるじゃねぇか!)
善はジンからの攻撃をかわすので精一杯。
まともにエレクトの攻撃をくらうものならば、それはすなわち死を意味する。
善は決してジンの強さに萎縮したわけでもなく、力を十分に発揮しており
むしろ普段よりもいい動きを見せているほどだった。
それにも関わらず善とジンには、埋められないほどの圧倒的な差があったのだ。
そんな力の差を感じたジンは、善に情けをかける。
「橘善 期待はずれもいいとこだ
降りるか?このステージから
今すぐ逃げ出せば見逃してやってもいいんだぜ?」
これもジンの得意とする “揺さぶり” のひとつなのであろう。
信じられないことを言って、相手を動揺させる手口だ。
「だ、誰が逃げるか!なめやがって…!!
俺は親父の仇を取るんだよ!!」
ジンがニヤリと笑いながら、首をかしげた。
「父親…?知らんな
俺が貴様の父親を殺したとでも?」
「とぼけるな!!おまえが殺したんだ!!
すべての原因を作ったのはおまえだ!!おまえだけは絶対許さねぇ!!」
善は怒りに身を任せ、ジンに斬りかかる。
ジンはその攻撃をまたしても受け止めた。
両者は近づき、お互いの顔がよく見てとれる。
ジンは善の顔をじっと見ながら、堂々と言った。
「くっくっくっ…とぼけてなんかいやしない
俺は貴様の父親を殺してない そうだろう?」
「いい加減にしろ!!じゃなきゃどう説明する!?
おまえが引き起こした火事のせいで、俺がリミテッドとなり、今こうして……」
カッと熱くなる善に、話を遮るようにしてジンは言う。
「だから……俺じゃない……
父親を殺したのはおまえだろ?橘善」
「!!!
な、なんで俺が!?だって俺は……」
「よく考えてみろ
どうしておまえがこうして生きていられる?
どうしておまえがこうして“ここ”にいる!?」
初めはジンの言葉の意味も、善は理解できずにいた。
(何言ってんだ…!!お、俺が親父を……?そんなはずは……)
しかし、次第にその言葉の意味を善は理解する。
怒りに満ちて、興奮状態であったはずの善が、すっと体を引いて足を止めた。
(!!!
そ、そうだ……あの火事で死んだのは本当は俺だったんだ
でも俺の代わりに親父が死んで……)
善の異変に気づいたレトインが叫んだ。
「善!!ヤツの口車に乗るな!!
おまえの動揺を誘ってるだけだ!気にすることはない!!」
だが、そんなレトインの声も今の善には届きやしない。
(親父を殺したのは俺……?
俺が悪いのか?……俺が……俺が……)
『俺が親父を殺した』
善の頭の中にはこれっぽちもなかった。
すべての元凶はジン
ジンさえいなければ…ジンが父親を殺したんだ
そう思っていた。
いや、そう置き換え、すべての責任をジンになすりつけていた。
(なぜ親父が俺の代わりに……?俺がもっと親父に嫌われてればよかったのか…?
そうすれば親父は死なずにすんだ…
俺のせいで…俺のせいで…親父は……!!)
善も心の底では理解しているつもりだった。
自分は悪くない。あの火事を引き起こしたジンが悪いに決まっている。
誰に聞いても、みなそう答えるだろう。
しかし、善の代わりになって父親が死んだことは紛れもない事実。
親孝行のひとつもできていなかった善に残る後悔
“罪悪感”は善本人にしか理解することはできない。
レトインに言われた3つの理由のうちの、最後のひとつ
あの火事を引き起こし、すべての始まりを作ったのはジン
その事実を知らされて以来、善のモチベーションは全く別のものとなっていた。
善の戦う理由はいつの間にか
“みんなを守ること“ から “ジンへの復讐” へと変わっていたのだ。
ひとつでも油断すると殺られる、一瞬も気を抜くことの許されぬこの戦い
善にはりつめていた集中力という名の緊張は
ジンの揺さぶりによって崩れ去ろうとしていた。
第115話 “罪悪感” 完




