第106話「二階堂 仁②」
ジンは善とレトインに向かって言った。
「おまえらもそうなんだよ…
おまえらは“リミテッド”…
しかも、俺達はその中でも特別な存在の“エレクト”だ!!
俺達は神に愛されたんだよ
なぁ、そうだとは思わんか?」
想像を超えたジンの思考に、善は戸惑った。
善の中にあった、“リミテッド”とは……
“感謝”だった。
父親は、俺のことを愛してくれていた。
善はこれから先の人生、父親の分まで生きるんだと誓い
心底、父親には感謝していた。
しかし、ジンの中にあったものといえば
“憎しみ”、“復讐”
同じリミテッドでありながら、こうも違うのかと思ったが
何より善は……
そんな理由で、橘家がジンの手によって放火に遭い
父親が死んでしまったのかと思うと…
バカらしく、本気でジンが許せなかった。
「てめぇ…そんな理由で親父を…
よくもそんなくだらねぇ理由で親父を殺しやがったな!!!」
ジンはとぼけたのか、首をかしげた。
「おまえの親父…?
はっはっは、俺はおまえの親父なんか殺してなどいない…」
「!!!
よくも寝ぼけたことを堂々と…」
善はカッと熱くなるとこだったが、レトインが善を止める。
「善!!!言ったろ…?
得意のヤツの“ゆさぶり”だ…
気にしてはいけない」
「くっくっく…」
ジンの本当の考えを、初めて聞かされたレトイン
しかし、それでもまだ、納得いかない点があった。
「貴様のその考えだと、なんだ…?
要するに、俺達リミテッドは神に選ばれた存在…
だとすれば、全員俺達は同士、仲間ってわけか…?」
ジンはにやけながら答えた。
「本来はな…
だが、おまえ達は俺の邪魔をする…
おまえらからすれば、逆に俺が邪魔なんだろ?
そりゃ考えが違うからな…
対立するのは当たり前だ
どこの世界だって、いつの時代だってみんなそうだろう?
大した理由でもないのに、争いは起き、繰り返され続ける…
全員が同じ考えになるわけがない…
誰かが世の中の上にたち、納得のいかないものが
その上のものに、従わなければならない…
それが世の中のしくみってもんだ…
そうだろう…?」
あまり共感したいとは思わなかったが、レトイン渋々頷いた。
「それはあるかもしれないな…
例え不条理でも、上の者に従わなければならないものは、世の中に確かにある…
だが、俺は到底、おまえの考えなど理解できない…
理解したいとも思わない…
だったら、争うしかない
今、ここで決めるしかない!!」
レトインの理解力に、ジンは笑った。
「さすがレトインだ!相変わらずおまえは頭がいい!!
勝者こそがすべて!!
上に立つものだけが、すべてを決めてきた!!
世の中のルール、そんなものいくらでも変えられる!!
俺がおまえ達を倒し、ここから歴史は生まれ変わる!!!」
善は腹をくくり、覚悟を決めた。
「話し合いで解決…
そんな楽な方法で済む相手じゃねぇもんな!!
よし…なんとしても勝つぞ!!レトイン!!
ん!?
レトイン……?」
善は再度気合を入れようと、レトインに声をかけた。
しかし、レトインは黙って下を向いていた。
黙るレトインは、ゆっくりと顔をあげ
鋭い目つきでジンを睨み付けた。
「貴様の考えも、裏にあった背景も、よく分かった…
だが…それでも…
ひとつだけ…たったひとつだけ、理解し難いことがある…」
「………?」
「ジン…おまえは…
なぜレイを殺した?」
第106話 “二階堂 仁” 完




