第102話「勝機0%②」
誰が見ても分かるほど、露骨に不安な表情を見せる志保、大悟、エーコに
たまらずレトインが声をかけた。
「大丈夫だ みんな…
分かっている…不安なのはな…」
「レトイン…」
「ジンがいつ、どう攻めてくるかは分からないが
3人に頼みたいことがある!」
大悟はレトインの頼みに、強く答えた。
「あぁ、俺達にできること…
なんでも言ってくれ!!」
レトインは頷いて、3人の顔をよく見ながら言った。
「なんとしても、3人で黒崎を…
黒崎 嵐を止めてくれ」
「!!!
嵐……」
エーコは、少しためらいの表情を見せた。
「大丈夫か…?エーコ…」
「大丈夫だし!!
今は仲間意識よりも…
怒りの気持ちのが強い
あいつがトウマさんを欺き
死に追い込んだんだし!!」
エーコは複雑な心境だろう。
しかし、エーコに迷いはないようだ。
そんなエーコの決心に安堵して、レトインは話を続けた。
「エレクトにはエレクトの力でしか対抗できない
残念だが、それは紛れもない事実だ…
だから俺と善が、ジンの相手をする
恐らく、自然とそういう流れになるだろう…
そこでだ!!
ただでさえ、ジンだけでも手がつけられないのに
ここに黒崎まで加わったら…
完全に俺達でも太刀打ちできない
勝機は…0%だ…!!」
「!!!」
「だから、みんなの力が必要なんだ!!
ジョーカーを倒すには、全員の力が必要なんだ!!」
決戦にそなえ、レトインは士気を高めた。
「よし、俺達にもできることはあったぞ!
絶対に黒崎を止めてやる!!」
「えぇ、もう見て辛い思いするるだけなのはごめんだもんね!」
「嵐のやつ…こてんぱんにしてやるし!!」
3人のモチベーションは格段と上がった。
無力さを人一倍感じ取っていた大悟も、レトインの一言により、やる気に満ち溢れている。
しかし……
そんな3人よりも、浮かない顔をした男が
一人遠くを、ぼんやりと見つめていた。
「善……」
そう…
何よりも、誰よりも
一番の恐怖と戦っているのは紛れもない善なのである。
エレクトの力を開花し始めたと言っても、正直まだまだ。
いつか、いつか来ると思いながらも
とうとうここまでやって来てしまった。
『いっそこんな時が訪れなければ…』
何度、投げ出そうとしただろう…
何度、逃げ出そうとしただろう…
そんな葛藤の中、自らを奮い立たせ、なんとなかここまで繋ぎ止めてきた。
そして、ついに善に訪れようとしているのだ…
“その時”が………
遠く一点を見つめる善の姿を見て、メンバー達は自分の死、自分の持つ恐怖や不安よりも
何よりも善のことが心配で仕方なかった。
誰一人声をかけることができない…
この気持ちは恐らく、善本人にしか分からない…
そう思うと、誰も善に声をかけれずにいた。
そんな重たい空気が漂う中、善が自ら口を開いた。
「なぁ…みんな…
みんなにさ、見せたいものがあるんだ…」
一方、その頃。
四天王壊滅の情報が入った
ジョーカー・ジン、黒崎
「ジンさん…
ついに俺を残して、全員いなくなってしまいましたねぇ」
「フン…なぁに…
所詮、全員捨て駒よ
東條も、エレクトの力のまえでは勝てん…
ハナから住む世界が違うんだよ!!」
そう楽しそうに話すジン。
ジンは笑いながら、どこともなく歩き始め
そっと黒崎から離れていこうとした。
「!!?
ジンさん…?
どこへ行くのです…?」
「まぁ…ちょっとな…」
意味深な行動に出るジン。
黒崎は“あること”に勘づいた。
「待ってくださいよジンさん!!」
呼び止める黒崎を無視をするように、去っていこうとするジン。
「待て…待てよジン!!!」
「!!!
何……?」
ジンは振り返り、鋭い目つきで黒崎を睨む。
物怖じせず、黒崎はジンに言った。
「もしや…焦っているのか…?」
「焦っているだと……?」
「正直、ここまで善達が来るとは思っていなかったんだ…
ここに来て善の急成長…
自分が負けるのではないかという
焦り!恐怖!!
あんたは負けるのが怖いんだ…
善達に、橘善に負けるのが!!!」
「俺が負けるだと…?
くっくっく…
ありえん話だ…」
黒崎はどこまでもジンに対し、強気に出る。
「だったらなぜだ!?
なぜ四天王・ゲンジを送り込んでいる最中に
最も信頼する、東條を送った…?
ゲンジを殺してまで、東條を送り込んだ…
もたもたしていると、このままでは善はもっと強くなる…
手がつけられなくなる前に、さっさと殺してしまおう
そう思ったんだろ?
しかし、すべての駒がなくなった今
今度はこう考えた…
今、ライジングサンの所に行けば
東條との戦いで疲れきっており
メンタルも少ない…
少しでも楽に勝とうと
あんたは今、善達を殺しにいこうとした!!
そうなんだろう!?違うか!!?」
「………」
図星だったのだろうか…?
ジンは黙った。
黙るジンに黒崎の叫びは止まらない。
ジンにここまで言える人物も、もはや黒崎しかいない。
「あんたに何年付き合ってきたと思ってる?
とんだ茶番はよしてくれ…!!
人の手を使わず、楽などせず
正々堂々、最後ぐらい戦ったらどうだ!?
(ふざけるなよ…ジン…
ここに来て、最後の最後の楽しみを
簡単に片付けるなんて、つまんねぇことすんじゃねぇ…!!)」
黙りこくり、淡々と黒崎の話を聞いていたジンだったが
突如、大きな声で笑い出した。
「はっはっはっは!!
俺が怖がっている?焦っている?
バカを言うな!!
いいだろう!!おもしろい!!
ライジングサン…レトインとは因縁の仲だ…
白黒はっきりさせて、ここで決着をつけようじゃないか!!!」
これはあくまで、黒崎の推測にすぎなかったが
もし、今ジンに奇襲をかけられていたら…
ライジングサンは、手も足も出ず
いとも簡単に終わっていただろう。
今までの苦労も、成長も
レトインの作戦も、すべてが無駄……
レトインの言っていた、勝機0%は免れ
見えないところで、ライジングサンのメンバーは敵であるはずの黒崎に、救われていたのであった。
ライジングサンVSジョーカー
すべてを終わらす、運命を左右する
最終決戦が、幕を開けようとしていた。
第102話 “勝機0%” 完




