第100話「待ち続けた男②」
東條がレトインの攻撃から免れようとするも、遅れた一瞬をレトインは逃さない。
「ぐっ!!」
雷の槍が東條を突き刺した。
東條の反応がもっと遅ければ、大ダメージといったところだったが
致命傷といえるダメージは与えることはできなかった。
「くそっ…私の時の力が効かないとはな…」
「フン!雷の力も“光”と同じ…
原理などは知らんがな
アインシュタインにでも聞いてろ」
「ジンさんと同じだ…
火だって同じ“光”の性質を持つ
自分を光の存在とする“エレクト”の力…
どこまで私を否定するつもりだ…エレクトめ…」
時の力のまえに、何もすることができずにいた志保は、エレクトの強さを再確認する。
「これがエレクトの力…
すごい…時の力も効かないなんて
これなら東條も簡単に倒せるはず!」
レトインの勝利を確信した志保だったが、大悟が釘を刺す。
「いや、そうともかぎらんぞ…
リミテッド・ブレイクはエレクトの大技…
レトインとて、長時間は持たないはずだ」
「じゃあそれが切れたら…大変なことに…」
「あぁ、リミテッド・ブレイクが続くうちに東條を叩くしかない
この戦い…そうは長くならないはずだ…」
時の力を無効化された東條だったが、そう簡単に屈しはしない。
東條にも四天王としての意地がある。
「時の攻撃が効かずとも、いくらでも戦い方はある…
ジンさんですでに体験済みだ…!
ヘイスト!!」
東條はレトイン相手にではなく、自らに時の力使った。
「なるほど…」
東條の移動速度が上がる。
そこから繰り出される、銃の攻撃。
「死ね!!レトイン!!」
レトインは銃弾をジャンプしてかわそうとした。
「バカめ!!
ストップ!!」
拳銃から撃たれた弾は、東條の時の力により止まった。
そして、レトインが着地する寸前にまた力を与える。
銃弾は再び動き出す。
時に操られた銃弾は、レトインの左肩をかすめた。
「チッ…やるじゃないか…東條…
今度はエレクトのまえに屈しないんだな」
「黙れ!!
一体どれだけの訓練を続けてきたと思っている!!
さぁ、まだまだ戦いはこれからだ!!」
両者一歩も譲らない、東條とレトインの熱い攻防が続いた。
それでもお互いに、中々決定打を決めることができない。
力は本来エレクトのレトインのが上であるが、東條は自らの動きを加速させ、うまく攻撃を回避し続けている。
大悟達は、この戦いの行く末を、ただ見守ることしかできずにいた。
「力はほぼ互角…」
「それだとまずいじゃん…
リミテッド・ブレイクの効果が切れたら、レトインは時の力の餌食だし…」
もはや相手のエネルギー切れを誘う、東條の方が優勢かとも思われた。
その時、レトインが仕掛けた。
「しかし…妙だな…
エレクトの力のまえに、ここまで踏ん張れるとは…
これこそがおまえの存在意義か…?」
「妙…?何が言いたい!?」
「毎日のように行われる、過酷な訓練…
ジンに勝てないと知りながら
今まで生き続けてきたということが、どうも不可解だ…
世間に不満があるというのであれば
いっそのこと命を絶った方が楽だったろうに…」
レトインが必死に牙を向く東條に対して、疑問に思ったこと…
それは東條がジンに支配されてまで生き続ける理由
それだけの理由で、こうも人は強くなれるだろうか…?
そんな引っ掛かりがレトインに残る中
東條と同じくエレクトの力を持たない、弱き立場の大悟が小さい声で静かに言った。
「待っていた
俺達のような、ジンに逆らう
抗うような人物の存在を…ずっと…」
「!!!」
レトインは大悟の一言を聞いて
にやついた。
「自分ではどうすることはできない…
自分では決して敵わない…
だからずっと待ち続けた…
“誰か”がジンを倒してくれるその日を!!」
東條は慌てた。
常に冷静であるはずの東條が、初めて乱れた。
「ば、ばかな!!言ったはずだ!
どうなろうとかまわないんだよ!
私の存在など…時代の流れなど
そんなのどうであろうと!!」
「それでも貴様が今日まで生き続けていることが
すべて証明している!
“自分”ではなく“誰か”が…
そんな日を、そんな“希望”をずっと持ち、待ち続けていたんだ!!」
果たして、大悟の言ったとおりだったのだろうか?
真相は分からない…
しかし、東條の動きがそれ以降、おかしかったのは歴然。
先程まで、ほぼ互角で戦っていた二人の戦いに動きが見られる。
東條はレトインに、完全に追い込まれた。
「はぁ…はぁ…
くそっ…これだからエレクトは…」
レトインは東條に寂しげに言った。
「おまえには、もっと早く会いたかったよ…
こんな姿になる前に…な…」
「だ、黙れ…
おまえなんかに、私の何が分かる…」
もうほとんど、東條に気力など残っていない。
いつもの余裕たる、堂々とした姿は、そこにはなかった。
二人の戦いの決着がつくと思われた、その時
どこからか一つの声が聞こえた。
「そんなことないぜ!レトイン!!
今からでも遅くないだろ!!
十分やり直せるさ!!」
一同は、声のする方を振り向いた。
「善!!!」
「お待たせ!待った?みんな!!」
橘 善
ようやく現れた。
すべての希望。東條の希望が。
ほんの一部分の言葉を聞いただけ…
一体善が、東條の何を理解しただろう?
けれども、善は言った。
「人は強くなれるんだ
不可能なんてないんだぜ?
見せてやるよ!東條!
俺の力を!!」
第100話 “待ち続けた男” 完




