第1話「炎上からの帰還者」
意識が遠のいていく…
うっすらと見える…燃え上がり続ける炎が…
(そうか…俺は死ぬんだ…)
「死ぬな…善…まだ死んじゃだめだ…善…」
目が覚めて気づくと、俺は病院のベットの上にいた。
"あの時"の記憶が、微かに蘇る。
(そうだ…家が火事になったんだ…
次第に苦しくなって、意識がなくなってきて…)
どうやら数日間ずっと眠り続けていたらしい。奇跡的に一命を取り留めたようだ。
目が覚めて、まず初めに知らされたこと。
それは俺にとってあまりにも衝撃的な出来事だった。
"あの時"の火事で…
親父が死んだ。
3BECAUSE
第1話
「炎上からの帰還者」
俺の名前は
"橘 善"
18歳の高校3年だ
あの火事から…
いや、親父が死んでから2ヶ月。
今でもまだ信じ切れないが、少しずつではあるけど元気にはなってきた。
俺の母さんは、小学校の低学年の頃亡くなって
うちは一人っ子だったから、家族はもう……
だから今は親戚のおじさんの家に暮らしてて、そこから高校に通ってる。
「あぁ~あ…今日も学校めんどくせぇな…」
どうもあの火事の日からというもの、何もかもが面倒くさい。
昔から学校をサボるのは日常茶飯事ではあったが、増して学校に行かなくなる日々が続いていた。
ドン!!
気だるそうに善が歩いていると、道端で誰かと肩がぶつかった。
「ってぇ~なぁ…何ボーっと歩いてんだよ」
ぶつかった男は長身で、フードを頭から被っていた。顔はよく見えない。
(なんだこいつ…?頭からフードで顔隠して…変なやつだな。
あんま関わるのはやめておこう…)
善が立ち去ろうとすると、フードの男は背中越しに話かけてきた。
「誘いは決して受けるな」
善は首を傾げた。
「はぁ……?」
「絶対受けてはならない だが断れば…
おまえは殺される」
「な、なんだと!?」
そう言われ善は振り返ったが、フードの男は一瞬にして善の前から煙のように消えた。
「!!!
き…消えた……」
少しの間善は動揺し、その場に立ち尽くしていた。
(おい、おい…なんなんだよ今のは…?目の前で消えたぜ…)
摩訶不思議な光景に直面し、恐怖にとらわれた。
だが、恐怖以上に善の中では怒りの感情が勝っていた。
(俺が殺されるだ!?ふざけんなっつーの!!
たたでさえこっちは2ヶ月まえ火事で死にかけてたんだぞ!?
その火事で親父は死んだんだ…
なんでこれ以上の不幸な目に、俺があわなきゃならねぇんだよ…)
フードを被った男の言葉を信じたわけではない。
しかし、誰もが『おまえは殺される』などと言われたら嫌な気分になるに決まってる。
何の根拠もない。あいつの言うことを信じる方がどうかしてる…
けど…けど…
何か嫌な予感がする…
そんな悪寒がしてやまなかった…
「ったくよぉ~…なんなんだよあいつ!おかげで一時間も学校遅刻しちまったじゃねぇか!」
フードの男に会わずとも、どっちにしても遅刻だったのに完全に人のせいだ。
「あーちくしょう!思い出しただけで腹立ってくる!あのフードのやつ!
もうフードの服着たやつ見たら全員関係なしにぶん殴ってやりたい気分だ!!」
この先、善のまえに無関係な犠牲者が出ないことを願いたいところである。
やっとの思いで、ようやく学校にたどり着いた善。
善がふと校門に目をやると、制服を着た一人の女の子が立っていた。
(ん?校門のまえに誰か立ってんな…あいつも俺と同じで遅刻したのかな…?
あれっ!?制服が違げぇーや うちの学校の子じゃねぇな
てかあの子けっこう可愛いじゃん!)
可愛い子を見て気分が晴れたのか、さっきのムシャクシャした気持ちは少し落ち着いてきた。
どうやら善は感情の浮き沈みが激しい性格のようだ。
(しかしこんなところであの子何してんだろうな…
まっ!いっか!早く教室に行かなきゃな)
走って学校の中へと向かう善。
その姿を、女の子はただただ見ていた。
「…………」
そして、女の子はバッグから携帯を取り出して、すぐさま誰かに電話をかけた。
「もしもし…」
「志保か 見つけたか?ヤツを」
「えぇ…見つけました
"橘 善"を」
「そうか…で、ヤツとは話したのか?」
「いえ…まだ…ニヤついたバカ面で走り去って行ってしまいました」
「何をやっている!早くヤツとの接触をはかれ」
「すみません…どうもあのバカそうな男が例の男とは思えなくて…」
「間違いない
あいつは"リミテッド"だ
なんだ?それともおまえは俺を疑うのか?」
「めっそうもない…念のための、ご確認をしたまでです」
「だったら早く行け」
「はい 今すぐに」
一方その頃 教室では
(やっべぇ~…普通に授業始まってんじゃん…そっと入ればバレないかな…)
ガラガラッ。
そ~っ…
こっそりと教室に潜り込もうとする善をクラスメイトが見つける。
「あっ!竹中先生!遅刻した橘君がこっそり席に座ろうとしてます!」
(く、久保田!てめぇ!!)
「橘!また遅刻か!おまえいったい何分遅刻してると思ってる!」
「すみません先生…計ってませんでした」
「くだらないこと言ってる場合か もういいから席に座れ」
クラスが笑いに包まれる。
「あははははは」
(ふぅ~…遅刻したけど、なんとか竹中を激怒させずに済んだぜ…
じゃ…寝るとするか)
この時の俺にはまだ分かるはずがなかった…
このあと俺があんな目にあうことになるなんて…
第1話 “炎上からの帰還者” 完




