師匠に会いに行こう!
十歳になった
魔法使いになる。
そう思った。思っていた。
しかしこの五年間やっていたことは父からの地獄のような筋トレの数々だった。
十歳にしてはしっかりした体付きになり、背も150Cm程に伸びた。(この年代の男にしては高いほうだ。ドワーフの大人の一番大きい人でも俺と同じくらいなので、村ではかなり高身長の部類に入る。)
これも親父の方の血なのだろうか。
まあ全く魔法を教えてもらえず身体ばかり鍛えられていてかなり丈夫にはなった。
そのことには感謝である。
しかしだ!俺は何度となく魔法使いになりたいのだから魔法を教えてくれと頼んだのにゾフは「何事も身体が資本だ!それともお前の決意はこの程度なのか?」と煽られて地獄のようなトレーニングに耐えてきた。
しかもゾフの「なぁに、ちゃんと考えて立派な魔法使いにしてやるよ!」等という言葉に何度もごまかされて来たがもう我慢の限界だ!
いやまあ、どんどん強靭になっていく身体能力は楽しかったけれど(既に前世の身体より力も滅茶苦茶強いし、素早く動ける)もう騙されたりはしない!
「父さん!今日こそ魔法を教えてくれよ!俺は魔法使いになりたいんだよ!」
万感の思いを込めて今日も告げる。
これでダメなら家出してやるからな!
「そうだな。いいぞ」
「はいはいわかったよ。走りこみして…え?」
「まあそろそろ村の魔法使いに合わせる時期だと思っていたからな」
「おお…おおぉぉぉぉぉ!」
毎日の宣言が通じたのか平然と言い放つゾフ。
いや、全ては俺のために考えて鍛えてくれていたのだろう。
それに比べて俺はなんと浅はかだったのか。
とうとう憧れの魔法使いへの真の一歩を踏み出せるのだ。
父を信じてきてよかった!
「でも、村に魔法使いの人居たんだね。狭い村だと思ってたけど俺、全然気づかなかったよ!」
「ハッハッハッ!父さんと一緒に村の自警団をしてる魔法使いだが、魔法使いらしく偏屈でな!村の外れの雑木林に家を構えてるんだ!」
自警団!実践的な魔法使いってことか!
これは益々期待が持てるというものだ。一流の魔法使いになって世界を旅する日も遠くないぜ!
「実はもう話は通してあるんだ。今日の鍛錬が終わったら早速お前を紹介するつもりだったんだよ。ハッハッハッハッ!」
特に笑える要素は無かったがいつものように豪快に笑いながら得意気に放つ父ゾフ。
そうだよな。最高の家族って転生モノじゃ結構テンプレだしな!本当に良かった!父さんを信じて本当に良かったよ!
◆
かくしてその日の鍛錬を終えた俺達は村はずれに住む魔法使いに会いに雑木林を歩いていた。
「ねぇねぇ!その魔法使いの人はどんな人なの?」
逸る気持ちを抑えられない俺は少し早歩きになりながらゾフに尋ねる。
「ああ、名をボルクスと言ってな。雷のように鋭く、賢い男だ!」
「うぉぉぉぉかっけー!早く会いてー!」
雷の魔法使い!俺の中の厨二ソウルが刺激される!
汎用性の高い電気を操り科学文明チート起こせたりして…楽しみすぎる!
なんて事を考えながら楽しげに歩いていると小屋が見えてきた。
小屋に絡みつく植物。家の前に置いてあるかぼちゃ、何もかもが魔法使いっぽい雰囲気を醸し出している。
しかしいきなり俺から扉を開けるようなことはしない。ゾフも言っていたが魔法使いは偏屈で頑固で変わり者というのが通説。
初対面はしっかりしないと。
「お~い!ボルクス!俺だ。ゾフだ!」
ゾフが小屋の扉を乱暴にノックしながら尋ねる。
「聞こえとるわい。入んな。」
知性を感じさせる低く、よく響く声が返って来た。
もう我慢できなかった。俺は五年待ったのだ。
扉を勢い良く開け放ち室内へ。
「イース・ヴィヴァルディです!今日からよろしくお願いします!」
中に居たのは禿げた頭。蓄えられた胸まで伸びた黒ひげそして…
上半身裸のマッスルだった。
「…え?」
彼は一体?ボルクス氏はどこにいるというのか?
というかゾフに負けず劣らずすごい筋肉のドワーフだ。
「誰?このおっさん?」
「何ってこいつが魔法使いボルクスだよ。俺の知ってる中じゃ一番の魔法使いだ!」
魔法使いとは一体…




