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魔法使い「筋肉こそ正義」  作者: 砂糖田中
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諦めたほうが良いのでは?



 一番古い記憶と言うのは何だっただろう?

 少なくとも自分は歳を取る毎に始まりの記憶は薄れ、新しい記憶に塗りつぶされていく。

 二度目のことなれど、これは始まりの記憶に等しい。

 平々凡々な現代人であった自分はこの日、前世の記憶を持ったまま転生したようだ。

 視界はぼやけていて、音もよく判断できない。ただ、自分自身の以前日本で暮らしていたと言う常識だけは理解できる。それでいて自分の意識が覚醒した時確かにもう一度『生まれた』と言う神秘の様なモノを感じたのだ。

 それは五感がうまく働かないこの状況では何の説得力も無いと生前(それすらも定かではない)の理性は訴えるが、本能は肯定している。



 後々解ることだが、この日イース・ヴィヴァルディは異世界転生者として生まれたのだ。



 ◆


 赤ん坊としての生活が始まって一ヶ月程過ぎたのだが、この世界はどうや俺が居た世界ではないようだ。

 言語や文字は見たことないものばかりだし、何より母親らしき人が手品のように火を起こしたていたのだ!

 初めはライターか何かを隠し持っていたのかと思ったら、そうでもない。

 ある時母親の手のひらから小さな魔法陣の様なモノが出現し火を出すのが見えたのだ。

 これにより生前創作物でよく聞いた、異世界転生を自分が経験していて、ここが異世界なのではと思うようになった。

 俺、大興奮である。

 ファンタジーとかゲームとかを結構嗜んでいた身としてはワクワク感は尋常ではなかった。

 子供の頃(今現在自分は赤ん坊だが)憧れた魔法使いになれるのでは?そう思うと妄想は止まらず、雷や炎を操るクールな魔法使いの自分を夢想するのは止められなかった。

 他にも、両親と思われる人物はどう見ても日本人ではなかったのもここが異世界なのでは?という推測が正しい物の様に思えた。

 


 「***?***」

 


 言語は分からないがこちらに笑顔で話しかけてくるのは恐らく父親だろう。歳は三十代前半に見える。赤茶けた髪に彫りの深い瞳で海外に出たことの無い自分には外国人の様だ。と言う程度の認識くらいか。しかし何よりその身体が立派だった。二メートルはありそうかという身長、筋骨隆々のボディ。テレビで見るようなマッチョとは違い、とにかく生物として完成されかの様な身体に、初めてしっかり彼を見た時は思わず見惚れてしまった程だ。(決して自分は同性愛者ではない)



 「*****」



 そして次に穏やかそうな声でこちらに声をかけた母親は、日本人より鮮明な黒髪、クリっとした愛らしい大きな瞳、天真爛漫な少女のような笑顔が印象的な人だった。と言うより、見た目どう見ても少女だった。歳は十代前半の様に見えるし、最初は何かの間違いかとも思ったが彼女から毎日母乳を頂いてるので間違いはない…はず。

 異世界転生したら父親がロリコンだった!

 え!?

 異世界転生したら母親が少女だった!

 どうすんのよこれ?

 魔法使いになる前に俺はそもそもまともな人生を歩めるのだろうか?



 ◆



 早いもので俺が生まれてから三年ほどの月日が経過した。

 心配だった言語の問題は学業の成績が並だった俺でも、赤ん坊の身体故か思っていたより早く理解できた。

 魔法使いの道を目指すなら今のうちに本などを読み、さっさと魔力を高めたり等転生モノのテンプレを歩みたいものなのだが、俺が生まれたこの家はあまり裕福とは言えないのか、本が見当たらず断念せざるをえなかった。

 (まあ、家も木製だし両親の服装も毛皮の服とかだもんなぁ)

 ということで目下の目的は両親の言葉に耳を傾けて言語たくさん覚えようと決めたのだった。



 「あら?ご機嫌斜めなのかしら?イース」



 三年経っても少女の見た目の母親にそう尋ねられる。

 こんなことを尋ねられるほど不機嫌な顔をしてしまっていただろうか?

 彼女、俺の母ミト・ヴィヴァルディ見た目に似合わないような苦笑を浮かべる。

 見た目通りの年齢でない所作はこんな感じに時々見ることができる。


 「おーい!今帰ったぞ!愛する家族たちよ!」


 大きな扉を開けるとともに大柄なマッチョメン。ゾフ・ヴィヴァルディが帰ってきた。

 相変わらず見事な筋肉だ。熊や猪と戦っても父なら遅れは取らないだろう。



 「もう、何をするにもうるさい人なんだから。イースがびっくりするでしょ?」


 「う…すまん。」


 「お仕事はどうだった?」


 「ああ、いつもどおりさ。ゴブリンが数匹出ただけだ。おやっさん達だけでノしちまえる程度のモンスターばかりで金もらってるのが心苦しくならぁ」


 

 言葉を覚える際、父親は害獣退治でも職業にしてるのかと思ったが、退治してるゴブリンやコボルト等の名称からモンスターが出る世界であるということが解った。

 ゲームや小説などに出てくる怪物と同じ感じの奴らなら何となくイメージを掴み易いのだが…

 とにかくそんな危なそうな奴らが出てくるのなら力を蓄えねば…まだ赤ん坊の頃から身体を鍛えていいものなのかは解らないし、やはり知識を積んでゆくことが今は大事だなと、改めて感じるのだった。



 ◆



 五歳になった。

 会話もそれなりにするようになったし何より行動範囲が広がった。これで家の中周り放題、外行きたい放題である。

 俺のテンプレ転生チートはこれから始まる!と、意気込んだのだが残念ながら家の中には魔道書などは一切なく、料理の本、モンスター辞典の二冊しか無かった。どうやら家が特別貧しい訳ではなく村自体に本が殆ど無いようである。

 しかしながら、古びているが高そうな装丁のモンスター辞典はとても楽しませてもらったが。

 しかし、家の外、村の中を歩き回れるようになって、衝撃の事実があったのだ!

 まず、周りの村人の背が低い人物が異様に多い。子供ばかりかと思ったら、皆立派な髭があり、背は低いながらも筋骨隆々の身体をしている。そんな彼らでもゾフには遠く及ばないが。

 母に聞いてみると、この村はドワーフという種族が主に住んでいる村らしい。母もドワーフであり、父は村では珍しい人間らしい。

 ドワーフの特徴は人間より長命で二百歳程の寿命を持ち、背が低く、手先が器用な種族だとかよく聞く創作物で聞く感じそのものだった。

 母が少女のような外見だったのもこれで納得し、安心したものである。

 だがゾフのロリコン疑惑はまだ晴らす気はないけどな!


 村の名前はラーベ村。シロガネ山と呼ばれる所の中腹にある小さな村だ。

 木彫り細工等や、山にある鉱石を取ったりしてそれを麓の街に売りに行って生計を立てているらしい。

 シロガネ山を中心とした小国、グナ国に属しているらしいが、外部の人間はめったに見ないので詳しくはよく解らなかった。村の知恵物の様な人が居なかったのも原因のような気がする。

 そんな状況ではなんとか母にせがんで文字や言葉をたくさん教えてもらう位しかやれることはなかった。

 なんでそんなに魔法使いになりたいって?ロマンだからなのと汎用性が凄そうだからだ。創作物では大体魔法がなんとかしてくれる。

 そんな魔法使いになりたく焦れた俺はなんとか機会を得て両親に魔法使いになりたいという事を上手く伝えて支援してもらうタイミングを見計らっていたのだ。

 父親はどう見ても戦士タイプだし母もどちらかと言うと腕っ節のほうが強いらしい。魔法も、幼いからという理由でまだ教えてもらていないのだ。


 そして、その時はやってきた。


 家族三人の夜の団欒にて母ミトがこんなことを言ったのだ。



 「そう言えば、イースは将来何になりたいの?」


 来た!この時を逃す俺ではない!


 「俺!魔法使いになりたい!」


 「「!!???」」



 驚いた両親に対して真剣な瞳で見つめる。何としても本気なのだと伝わるように。


 黙考し、俺と目を合わせる父ゾフ。その目もまた、真剣に考えてくれていると生まれた時からの付き合いで感じられた。



 「いいじゃあねえか!」


 「ええ!息子がしっかりした目標を持って私も誇らしいわ!」


 嬉しそうに頷く父。それに頷く母。嗚呼、親子は今、分かり合えたのだ。


 「その…家が余り裕福じゃないのはわかってる!でも二人には俺の夢を応援して欲しいんだ!」


 「気にするな水臭い!この父がお前を立派な魔法使いに育ててやるぞ!」


 「やった!父さんが……ん?」


 「明日から早速トレーニングだな!任せておけ!」


 「……ん?」



 これが、後に俺の将来の方向性を決めた瞬間であった。




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