テレビ、掃除屋、二度と来るな
「もういい、たくさんだ」私はそうつぶやいてテレビの電源ボタンを押しいまいましい現実の息の根を止めてやった。頭の後ろにやっていた両手をどけ枕に快楽を求めた。しかしあの光景がカメラのフラッシュみたいに脳裏を一瞬支配する。それが繰り返されているうちにとうとう一続きの映像になった。墓地清掃の日に倒れ、救急車で運ばれ、病院で検査。くも膜下出血と判明する。いわゆる卒中だ。それから意識を取り戻したものの2週間後にまた昏睡状態となり、そのまま帰らぬ人となった。そして今ではその残骸が小さな容器の中に入れられ石で囲まれた空洞に納められていた。そんなところに私が居るとでも思ったか? そんな理不尽なところに。私はまず空を飛んで世界一周の旅に出た。それはまあまあ面白かった。どこまでも続く海、森、砂漠。名所にも行ってみた。カッパドキア、ピラミッド、グランドキャニオン、名前は忘れたがとにかくいろんなところに行った。もっと生前にいろんなものを見ておくべきだった。テレビでなく実際にこの目で。月の裏側に行った時にはさすがに驚いた。そこは私みたいな者がたくさん訪れる一大リゾート地だった。ハワイやアカプルコなんて比じゃなかった。私はホテルの一室でテレビを見るのには正直うんざりしていた。ビーチに出てカワイコちゃんの水着姿を観たほうがよっぽどましだった。「よし、行くか」フラッシュバックする映像。「二度と来るな!」私は弟にそうどやしつけたのを憶えている。彼は結婚し子をもうけ、自営業のほうも危機を乗り越え成功し、安泰だった。彼は私の言葉通り二度と来なかった。あいつが不死身になったことを私はうらやんだりはしなかった。だって私はこうして楽しんでるじゃないか。多少退屈さを感じることもあるがたいていそれはすぐに忘れた。スリルを伴った若い女性との恋愛行為ほど楽しいものはなかった。現世では絶対にできないことだった。私と彼女はとある組織に狙われていた。なんでもやつらは“掃除屋”と呼ばれていて楽しんでいる我々をとっつかまえて地球に強制送還させるらしい。私たちがホテルの一室でいちゃついていると突然ドアが乱暴に開け放たれた。「楽しそうで何よりだな! ほら時間だ!」私は貧乏人の家に生まれた。今両親も亡くなり独り身だ。テレビを消しつぶやく。「もういい、たくさんだ」不死身の弟にでも会いに行こうかと思ったが言い渡されるのは“二度と来るな”だ。
改めて後書きを書く欄があると何を書いてよいやら迷う。「二度と来るな」というのは不死身の力を与えるという意味であることの他にも意味はあるがあまり限定しないことにする。とくに弟にそう言われることの意味については。