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序章 曇天、或いは少女の決意
雲が、勢いよく流れていた。
荒れた大地の上、少女はその雲を睨み付けるように見上げていた。年の頃は十五、六ほどであろうか。ところどころに金糸が織り込まれた深衣を身に纏い、上半分を結った長い黒髪が風にたなびく。両手には細い金の腕輪を着けている。
もうどれほど、青空を見ていないのか。作物は枯れ果て、川の氾濫も留まるところを知らない。蓄えだけでは三月も持つまい。
気分が沈んでしまうのは、不作のせいだけではないだろう。天候は人の心にも影響をもたらす。重く立ち込める曇り空は、じわりじわりと人々の心をも重く暗いものにさせていた。
「必ず……あの偽王を討つ」
少女の形の良い唇が動いた。その言葉は、年頃の少女には到底似つかわしくない。しかし少女の瞳には、火が燻っていた。
少女は身を翻して歩き出す。
曇天の下、金の腕輪だけが輝いていた。




