第三話
そして三日後の0500時、指揮所前に飛行服を着たパイロット達が勢揃いしていた。その勢揃いの前に楠木少将が一歩進み出る。
「作戦は先程も言った通りの敵飛行場爆撃である。諸君らの健闘を祈ると共に無事の帰還を祈る!!」
「楠木司令官に敬礼!!」
横山飛行長の叫びにパイロット達は一斉に敬礼をする。
「掛かれェ!!」
そしてパイロット達は各自の愛機に駆け寄る。葛城も愛機の九七式戦闘機に駆け寄り、葛城を見つけた整備員が葛城に声をかけた。
「葛城少尉、エンジンは絶好調です」
「そうか、そいつは良い」
愛機は整備員達によってエンジンは始動しており、整備員から席を変わった葛城は各計器類を確認する。その間は筒温上昇と共にカウルフラップを全開にしプロペラを低回転にする。
「油圧計良し。回転計良し……全部大丈夫だ」
そして葛城は飛行眼鏡を掛けて座席を目一杯まで上げ、周りにいた整備員達に呼び掛ける。
「出発OKだ!!」
それと共にフットバーペダルを踏み込み、整備員に声をかける。
「車輪止め(チョーク)払え!!」
二人の整備員が回転するプロペラに気を付けながら車輪止めを取り除いた。それを確認した葛城は軽くスロットルを開けてゆっくりと両端に松明を設置され火が燃えている滑走路の風下に向かう。既に戦闘隊長機は離陸しており、他の機体も順次離陸していた。
「行くぞ」
葛城はそう呟いてブレーキを緩めながらスロットルレバーを前に出していく。離陸滑走が始まり、葛城は操縦桿を前に押し込んで下げ舵にする。尾翼が上がり機体は水平飛行の姿勢で滑走する。
エンジンのトルクと後流の関係で機体が左方向に流れるが葛城は慌てずに右のフットバーを軽く踏み込んで修正、失速速度を越えたところで操縦桿を自身の手前にゆっくりと引いていくと機体が地面を離れた。
『帽振れェ!!』
パイロットへの別れの合図である帽振れを楠木司令官以下手が空いている全員が行って見送っていた。葛城はそれを一瞥しつつ高度を上げて空中集合する場所へ向かい、他の戦闘機と合流した。
『全機集合確認。コレヨリ敵飛行場ニ向カウ』
隊長の南郷少佐はそう告げると制空隊はカムヤシー半島方面に向かう。途中、瑞東基地から発進した爆撃隊とも合流し戦闘機三六機、爆撃機四八機の攻撃隊は海を越えたのであった。
「……んぅ……」
もしもの夜中の緊急に備えて飛行服姿で寝ていたカティアは窓から入り込む朝陽の光に目が覚めた。寝相が悪いのか彼女の銀色のショートヘアの髪形が少し崩れていた。
「……音?」
カティアは外から聞こえてくる飛行機の爆音に目を擦りながら時計を見る。時刻は0600を指していた。
「増援が来るのは0700じゃないのか? それから早めの移動かな」
カティアはふわぁっと欠伸をして顔を洗おうと洗面台に向かおうとした。そこへ風切り音が聞こえてきた。
「……何だ?」
カティアは思わず上を見上げた。ただの木の板が貼ってある天井だが風切り音は段々と大きくなり、まだ寝起きだったカティアの脳が危険信号を発した。
「まさか!?」
カティアは咄嗟に床に伏せて両手を頭に乗せる。そして大きな爆発音が外から聞こえ爆風が何枚かの窓ガラスを破る。
「………!?」
起き上がり窓の外に視線を移したカティアは絶句した。滑走路が燃えていたのだ。
爆撃を受けた――!!
カティアは順次に判断して飛行帽とゴーグル、マフラーを手に取り扉を開けて隣のレイラの部屋の扉を足で蹴飛ばして開けた。
「起きろレイラ!! 秋津洲の爆撃だ!!」
「言われなくても分かってるよ!!」
レイラもカティア同様に飛行服を着ておりゴーグルや飛行帽を持っていた。
「格納庫まで走るぞ!!」
「分かってる!!」
二人は格納庫まで走るのであった。
「撃て撃て!! 猿野郎を叩き落とすんだ!!」
格納庫付近の対空陣地では陸軍の兵士達が対空機関銃に改造されたマキシム機関銃に弾丸を装填して対空射撃を始めていた。だが攻撃隊はそれを恐れずに次々と搭載していた六十キロ爆弾を投下していく。
「!? 伏せろレイラ!!」
隊舎から外に出た二人は落ちてくる爆弾の軌道を目撃したカティアはレイラの頭を右手で掴んで地面に倒す。それ共に爆弾が対空陣地付近に着弾してその力を解放する。
「くぅ!!」
二人は地面に伏せていた事、爆風の行き先に瓦礫があったために二人に怪我は無かった。しかし、対空陣地付近にいた者達は爆風、爆弾の破片などで四肢をもぎ取られたりした。
「衛生兵ェ!!」
カティアの叫びに同じく付近で地面に伏せていた数人の衛生兵が対空陣地に向かう。辺りを見渡した一人の衛生兵はカティアに向かって横に首を振る。
「……くそ!! 格納庫に行くぞレイラ!!」
「分かった!!」
二人と数人の整備員は格納庫の扉を開けて中に入る。中には数機のツポルフ?-1戦闘機が羽を休めていた。
「直ぐにエナーシャを回せ!!」
カティアは整備員にそう指示を出して自らは飛行帽を被り、計器類をチェックしていく。その間にも爆撃は続いておりいつ此処の格納庫に爆弾が命中するか分かったものではない。
「エナーシャ回しました!!」
「良し!!」
カティアは直ぐにエンジンを始動して三枚羽のプロペラが回り出す。
「車輪止め(チョーク)払え!!」
「カティア!! まだ温まってないわよ!!」
「それどころじゃない!!」
レイラの呼び止めにカティアは整備員を下がらせてツポルフ?-1戦闘機と共に格納庫を出た。
「くそ!!」
格納庫の外を見たカティアはそう叫ぶ。飛行場の至るところでは爆撃を受けて炎上している機体や地面に横たわる戦死者、負傷者が多数いた。
「行くぞ!!」
ゴーグルを掛けたカティアは無事な滑走路を見つけて黒煙が上がる飛行場から離陸した。その後方にはレイラの戦闘機もいる。
「無事かレイラ!!」
『当たり前よ。私を誰だと思っているのよ?』
「フ、それは済まないな」
カティアはレイラに謝りつつ機体を上昇させて爆撃隊に追い付こうとする。
「貴様らをただで帰すわけには行かない!!」
カティアは上昇しつつそう叫ぶのであった。
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