表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

第一話 遭遇

はい、何してんだと思う零戦です。

空戦物が書きたかった、いずれオーバーラップとかのに出す練習かな。





 一点の雲が無く、快晴の青空が広がる。その青空の中を無数の小型のレシプロ機が飛行していた。

 そのレシプロ機は固定脚ではあるが立派な戦闘機の仲間である。


『此方八島三番、左下方ニ敵戦闘機隊発見セリ』


 パイロットの耳に仕込まれた無線レシーバーから雑音混じりの他のパイロットの声が聞こえてきた。敵戦闘機だ。パイロットの心臓がドクンドクンと鼓動が強くなる。それは緊張の類いかもしれない。


『此方富士一番、全機突撃セヨ。繰リ返ス全機突撃セヨ』


 隊長機はそう言うや否や機体を左横に傾けてそのまま降下を始めた。他の機体も隊長機に続く。


「……行くぞ!」


 まだ二十にもなったばかりの青年パイロットは頷いて突撃を開始した。そして急降下のGに耐えつつまだ此方に気付かずに飛行を続ける敵戦闘機の群れに向かうのであった。


「……もうちょい……此処だ!」


 八九式射爆照準器に写った固定脚の敵戦闘機の付け根に狙いを定めて操縦桿上部にある七.七ミリ機銃の発射ボタンを押す。

 発射ボタンを押せば七.七ミリ弾が出るはず――が出ない。


「!? 機銃を装填していなかった!!」


 青年パイロットは緊張のあまり機銃の装填していなかった。青年パイロットは慌てて水平儀と旋回計の両端にある七.七ミリ機銃のレバーを引いて弾丸を装填するが、敵戦闘機は間近まで迫っていた。


「くぅ!!」


 銃撃を諦めて操縦桿を左に捻って回避する。敵戦闘機も青年パイロットの存在を知って驚愕の表情をしながら右に回避する。

 しかし、その回避した先には別の敵戦闘機がいた。両機は刹那のうちに衝突して爆発、部品等が四散して重力に引かれて落ちていく。


「……え?」

『驚きだな烈風一番。銃撃せずに落とすとはな』


 状況が理解出来ていない青年パイロットだったが耳に仕込まれた無線レシーバーから同僚パイロットが軽口を叩いた。


「いや……機銃を装填していなかったから回避した結果だ」

『……御目出度い事だ』


 同僚パイロットは青年パイロットの言葉に呆れつつも空戦をしていた。青年パイロットも気を取り直して手頃な獲物を狙う。


「……あいつだ」


 青年パイロットは付け根の燃料タンクから白煙を噴きつつ退避している敵戦闘機を発見、追撃した。


「もうちょい……もうちょい」


 青年パイロットはそう言いつつ後方を確認して安全をはかる。そして射爆照準器に写った敵戦闘機に発射ボタンを押した。

 タタタッと軽快な音を奏でた七.七ミリ機銃弾が敵戦闘機の尾翼に命中して部品を落としつつ七.七ミリ機銃弾は燃料タンクを貫いた。

 白煙を吹き出ていた敵戦闘機は黒煙を噴き出し、操縦コントロールを失って重力に引かれるように地上に落ちていく。


「………」


 落ちていく敵戦闘機に青年パイロットは敬礼で見送っていたが突如、銃撃を受ける。青年パイロットは咄嗟に回避をするが右主翼に敵戦闘機の七.七ミリ機銃弾が命中した。

 しかし火は噴かずに今でも機体は動いている。青年パイロットは敵戦闘機を確認しようとした。


『―――』


 刹那の出来事だった。しかし、青年パイロットを追い越した敵戦闘機のパイロットは金の髪を風で靡かせた女性だった。


『此方富士一番、任務ハ完了シタ。帰還スル』


 無線レシーバーからの声に青年パイロットは操縦桿を引っ張って上昇する。


「………」


 小さくなる敵戦闘機を見つめながら青年パイロットはただ無言だった。敵戦闘機のパイロットは此方を睨んでいた。明らかに殺意を抱いた目であった。


「……これが戦争か……」


 青年パイロットは小さくそう呟いた。その日、秋津洲皇国海軍航空隊はツァーリ帝国航空隊と戦闘をしツァーリ帝国戦闘機三八機を撃墜、味方撃墜は僅か八機だった。




「お前の事、噂になっているぞ葛城」

「……真中か」


 北道州ほくどうしゅうの最北端にある秋津洲皇国海軍航空隊波津河内はつかない基地の第一士官次室で青年パイロット――葛城将博少尉は同僚の真中秀信少尉に声を掛けられた。


「機銃を使わずに落としたんだ。胸を張れよ」

「止せよ。あんまり言える事じゃない」


 葛城は苦笑して真中に席を進める。真中も席に座り置いてあるやかんを手に取り、コップに水を注ぐ。


「ツァーリ帝国と開戦してから三年……毎日毎日空戦ばかりだな」

「向こうが本土へ爆撃に来るから上も反攻が出来ないんだろう」


 秋津洲皇国とツァーリ帝国は百年程前は友好な関係だった。しかし五十年前、ツァーリ帝国で新たに即位した皇帝レガリル一世は突如秋津洲皇国に宣戦布告して侵攻を開始した。開戦した理由は今でも闇の中である。

 戦争初期は北道州の約半分が占領された秋津洲だが、海軍が巡洋艦や駆逐艦による通商破壊作戦を行いツァーリ帝国の輸送船団に甚大な被害を与えてツァーリ帝国軍の物資不足を蔓延させて陸軍が大規模な反攻作戦を展開させてツァーリ帝国軍を北道州から駆逐したのである。

 皇国軍は更にツァーリ帝国に程近いカムヤシー半島に上陸して半島全体を占領した。そこでツァーリ帝国の隣国であるプロイシアが和平仲介に出た。

 結果として双方は賠償金や領土を求める事はなかった(裏でプロイシアが双方に何かした疑惑がある)が、秋津洲はレガリル一世の退位を要求したがレガリル一世はこの要求を拒否して双方の関係は一発即発だった。

 しかし、数ヵ月後にレガリル一世は病で死去して息子がレガリル二世として即位した。秋津洲はツァーリから関係修復を言ってくるまでそのままにした。ツァーリとの戦争で陸海軍もある程度の損害が出ており再建途中だったのだ。

 そして三年前、レガリル二世が死去をして後を継いで即位したレガリル三世はまたしても秋津洲に対して宣戦を布告した。前回の秋ツァ戦争(秋津洲側呼称)から約五十年の時が流れていておりその間兵器の開発は進歩していた。

 時代は空――航空機の時代になっていた。航空機は秋津洲もツァーリ帝国も保有しており、開戦から三年が経った今では双方も固定脚の戦闘機を使用して戦闘をしていた。


「それにしては帰還してから妙に大人しいな」

「……空戦中に敵のパイロットを見た」

「仲間が落とされて怒っていたか?」

「……女性だった。女性のパイロットだった」

「……そうか」


 葛城の言葉に真中はそれ以上何も言わなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ