ある女のひとつのハジマリ。
ざわざわと行きかう人々。車の排気音に混じる小さなクラクション。季節は春。オシャレに身を包み、賑やかな街を歩く女の子たち。スーツを着こなす大人たちがお昼のランチをどこで食べようか迷い歩く。そんな街中にある、とあるパチンコ屋。中はガンガンと強烈な音が行き交っている。その一席に座ってモニターにガンを飛ばす女がいた。
「当たれ…レア…、来いよ…、」
軽快なリズムと共にかわいい海の生き物が流れるモニター。煌びやかに光り盛り上げる役物。女の気迫に圧倒させたのか、近くにいた他の客が去っていく。台もその影響を受けたのか、モニターに熱いリーチを予告する保留が入る。
「っしゃああ!来た来た来た!!」
かじりつくように見入る女の両隣にスーツを着た男たちが座ったが、そんなことには気づいていない。そのスーツの男たちも女同様、女の座っている台のモニターに顔を向ける。リーチ!とかわいらしい声が聞こえ、鮮やかな色のお魚が流れた。
「熱い!熱いぞこれ!!」
大きな独り言をいいテンションの高い女と冷静にモニターを見つめるスーツの男2人。見つめられる先で必死に泳ぐ海の生き物たち。そこに女の待ち望んだ図柄が縦にならんだ。
「待ってましたああ!!」
左手でつくるガッツポーズ。モニターに映る笑顔の女の子が祝福の歌を歌い始める。これから続く大当たりラッシュに期待をよせ、聞きなれた歌を口ずさむ。そんなうきうきな女の方に顔をよせる男たちは、どこか楽しそうに笑っていた。
「残念ですね、当たって!」
「えっ!?なんて?」
「当たって残念ですねって!」
「はぁ?!意味わかんないんですけど!!」
男たちは話しかけたあとすぐに女の両腕を片方ずつ掴み、強制的に女を立たせた。いきなりのことで混乱する女ににこやかな笑顔を向け、スーツによって隠されている鍛えられた体で女を連れて行く。すぐにこの意味がわかった女は眉尻をさげ落胆の表情を浮かべた。
「当たってるんですけど…当たったばっかりなんですけどぉ…!!!」
全く聞き入れない男たちと共に、その声は大きな娯楽ホールの出口から消えていった。