第九十四章:混雑
碧町駅まで着くと、やはり駅前は混雑していた。
そこまで都会というわけでは無いが、この辺りで一番大きくて立派な神社はここにしか無いので――
まあ混雑するのも仕方が無いといえば仕方が無いのだろう。
これだけの混みようだ。
意外と会えないだけで知り合いの一人や二人――
「あれ? 裕海~!」
声のする方を見るとグレーのコートを羽織った灯がこっちに向かって手を振っていた。
隣にはもちろん――
「どうも。こんにちは」
最初に会った時とは比べ物にならないくらい大人っぽくなった文田君が姿勢良く頭を下げる。
高校生男子が成長速いっていうのは分かる気がする。
毎日会っている同級生にはそんな事感じないけど、たまに会う人とかを見ると凄い変わる。
……クリスマスにも会ったけどね。
初めて会ったのが二ヶ月くらい前だから――
何か大人っぽくなるきっかけでもあったのかな?
「ところで裕海、どこ行くの? 今から電車乗るの……?」
「梨花と一緒に行くから~」
灯は辺りを見渡し、
「確かにここで待ち合わせしたら確実に迷いそうだわ」
灯はトントンと肩を叩き、天に向かって伸びをした。
「電車混んでたから疲れたよ~!」
「そんなに混んでたの?」
「もう通学地獄並み! ここのところあまり人混みに揉まれて無かったから、かなり疲れたわ」
私は改札をチラリと見て納得した。
もう電車が発車して数分経つのに、まだ改札周りの人々がはけない。
碧町駅のここまでの人が集まるなんて、今日のこの日くらいしか無いんじゃないだろうか?
それとも私が知らないだけで実は――
「あ。そろそろ行かなくちゃ……」
「灯先輩はおみくじ引きますか?」
灯は時計を見て、文田君は灯のその行動を見てお互いに神社へと歩き出した。
「じゃねっ。氷室さんによろしく!」
私は灯に手を振り返し、切符を買って改札の中へと向かった。
電車は混んでいた。
座れる座れないの問題では無く、普段の通学地獄――も実はここ発車の電車
はあまり無く。
こんなに混んだ電車に乗るのは本当に久しぶりだった。
――うぐぅ。押しつぶされる……
窓に押し付けられ、久しぶりに窓の外の景色を眺めてみる。
いつも乗っている電車の景色なのに、少し新鮮に感じる。
最近通学中に外なんて見てなかった。
音楽聴きながらボーっと前を見る。
同級の友人と喋りながら登校する。
半分寝かかる――
大抵この三つをしている間に学校に到着する。
高校付近の駅までは意外と近い。
だから特に何もしなくてもすぐに着いてしまう。
「~♪」
学校前の駅のアナウンス。
私はそこで降りて次の電車に乗り換えなくてはならない。
梨花の家まではここからそう遠くは無いのだけれど、途中で乗り換えなくてはいけないのが少々面倒臭い。
しかも今日は定期切れてるから、ここまでも切符買わなきゃだったし……
でも梨花に会えると思うと、そんなちっぽけな事はどうでも良くなる。
切符買うのが面倒だろうと、電車内でおしくらまんじゅうするのが苦痛だろうと――
どれか一つでも欠けては梨花に会えない。
私は押し付けられていたドアから流れるように電車を降り、南町へと向かう
電車に乗り換えた。
「あ。裕海ぃ!」
南町駅の改札を出ると梨花が手を振っていた。
待っててくれたんだ……凄く嬉しい。
私は改札を出ると同時に梨花に駆け寄り、抱きしめ合いながらクルリと回った。
嬉しい。梨花の胸の中で抱きしめられる。
ここ数日間絶対に出来なかったことだ。
梨花の甘い匂いが鼻腔をくすぐり、思わず猫のように目を細めてしまう。
「にゃ~」
「あらどうしたの? 甘えっ娘さん」
梨花に鼻先をチョンとつつかれ、思わず笑みがこぼれる。
梨花はお姉さんのような微笑みを見せ、身体を放した。
「さて。今から行く? それとも――」
「ぐぅぅ……」
梨花は俯く私を見てクスりと笑い、
「そうねぇ。どこかで何か食べてからにしましょうか」