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第九章:本当の気持ち

「あ~あ……。どうしよう今日のキス」


 いっそ夢の中でのキスも含みます! って感じのサービス霊だったら良かったのに――何て事を考えている間にももう四時か……。


「裕海~ちょっと~」


 母に呼ばれた。こっちは人生を左右するくらい大変な事で悩んでるってのに……何だよも~。


「はーい!」

「裕海、これ……お隣に届けてきてくれない?」


 そう言って母が差し出したのは、オレンジ色で(つや)のある綺麗なカキだった。


「おばさんに貰ったの……家じゃあんまり食べないから良かったらって――」

「分かった分かった。じゃ、行ってくるね」


 お隣は大学生くらいの男の人で一人暮らしだったはずだから……。見込み無いなあ……。



「こんにちは~」

「Oh!」


 え? 何、外人?


「Oh! Cute girl! Very cute girl!(可愛い女の子!)」


 強く抱きしめられ、ドサクサに(まぎ)れてキスされた。あ、一応言っておくと女性でした。


「すみません……お騒がせして」


 ここの住人が出てきた。良かった間違いじゃ無かった。

 

「アメリカ人の知り合いが来てたんです――あ、カキですか? ありがとうございます」


 私はカキを渡し、機械のようにカクカクと部屋に戻り、ベッドの上に倒れた。


「あっけなく終わった……」


 嬉しさと同時に寒気がした。無理やりされるってのはやっぱ怖いよね、……うん。



 ---



 幸い変な夢も見ずに月曜の朝を迎えることが出来た。

 夢にあの人が出てきたら間違いなくトラウマになる。

 それと――梨花に早く会いたいな……。



「おっはよう! 裕海ぃ!」


 この明るさは……もしかして?


「へっへ~ん、昨日の話聞きたいか~?」

「良いよ、聞いてあげようじゃ無いの」


 灯はもったいぶってほっぺたに人差し指を当てた。


「え~? しょうが無いなあ……何とっ! 灯ちゃんにも春が来ましたっ!」

「え~! おめでとう」

「告ったらさ~、考えさせてって言われて――夜電話がかかって来て、こちらこそよろしくって……きゃぁ~!」

「良かったね~」

「何言ってんの、次は裕海の番よ」


 私? 私……付き合ってるよね?


「何関係無いって顔してんのよ~ ……倉橋君、落としちゃいなよっ」


 ああ……倉橋君……か、正直言って――今彼の事が好きかって聞かれると……私にも分かんない、この前まではいつでも倉橋君の事ばっかり頭に浮かんでたけど――最近は――。


「梨花……」

「へ? 梨花? 誰それ」

「双海先輩!」

「あ~待って、すぐ行く!」


 私は……梨花の事を本気で好きになってしまったのか……?




 昼休みも灯は来なかった。恋をした人間は他の物が見えなくなってしまうんだ……灯も――多分私も……。


「裕海? 大丈夫?」


 梨花の心配そうな顔が見えた。

 大丈夫だよ、心配しないで。


「屋上行こ?」

「うん!」


 梨花……やっぱ可愛いなぁ……。




「どうしたの? 裕海、何か元気無いよ?」


 少し寒くなってきたからか、屋上はほぼがら空きだった。私たちのいる所なんかもろに風が吹き込むから側には誰もいなかった。


「大丈夫だよ……大丈夫」


 自分でも大丈夫じゃ無いのは分かっていた。灯はどんどん先に行っちゃうし――私自身はどうしたいのか自分でもよく分からない。

 私は、本当に倉橋君が好きだったのか――。


「ちゅっ……」


 梨花の唇が優しくほっぺたに触れた。


「しよっか?」


 梨花の笑顔――やっぱ私は梨花の事が好きなんだなぁ……。



 ---



「ごめーん、今日も待たなくていいから」


 気のせいか灯が冷たく感じる、梨花に暖めてもらいたいな……。


「裕海! 今日はどっか寄ろう」

「良いよ、どこにする?」


 私は梨花と手を繋ぎ、教室を出て行った。




 -----




「…………」

「何あいつ……。裕海と仲良くしちゃって――裕海の親友は私だよね? ――委員長なんかとベタベタしちゃって……」


 蒔菜裕海と氷室梨花が手をつなぎながら校門を出て行くところが、双海灯の瞳に映る。

 楽しそうに笑い合いながら、身体を寄せ合っている。


「許さない……」


 双海灯はその光景を視認すると、踵を返し、校庭脇に位置するテニスコートへと姿を消した。

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