表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/132

第八十五章:失言

 ――カーン! ゴングが鳴った。青コーナーに立つのは元チャンピオン!

静かなる青龍(せいりゅう)と呼ばれし童顔男子。妹尾(せのお)

「セノオ! セノオ!」

 対する赤コーナー! 期待の新人、鳴瀬成美(なるせしげみ)! 思い人の彼氏の目の前で

もいちゃつける、まさに(はがね)の帝王!

「ナルセ! ナルセ!」

 それを見守るプリンセス・アイリ! どちらがプリンセスの(ハート)()ち抜く

のか――

「裕海ちゃんどうしたの? ボーっとして」

 姫華に顔の前で手を振られて我に帰った。

 ――さっき電車で隣に座ってた人が携帯でプロレス見てたんだよ。

「どうでも良いけど……もう裕海ちゃんの家過ぎたわよ」

 ――私は駅とは反対側の方角のコンビニに向かって歩いてしまっていた。

「……何か買ってこうか?」

「私ココア!」



 姫華はココア。私はミルクティーを買ってコンビニからの帰り道を飲みな

がら歩いていた。

「はぁ~……温かい」

 幸せそうに真っ白な息を吐き、姫華は遠くを見るような目で、

「さっきは何を考えていたの?」

 ――さっき? さっきは……あー、愛理ちゃんのこと?

「愛理ちゃんの三角関係の事」

「愛理って三角関係だったの!? ――やだ……私と一緒」

 うっとりした表情で(ほお)を包む姫華を見て、

「愛理ちゃんの場合は、二人から好かれてるって意味だけどね」

 突然姫華が固まった。――ココアを一気に飲み干し、息をたっぷりと吸い

込み――

「リア充爆発しろぉ!」

 叫ばないの!

 姫華の叫び声に数人の通行人が振り返り、「ワオーン」と犬の遠吠えが(ひび)

いた。

「はぁ? マジで愛理ってそんな逆ハー状態なわけ?」

 このココアお酒でも入ってんのかしら……

 姫華は唐突(とうとつ)に立ち止まり、

「待って、じゃあもしかしてシゲミって……男!?」

 そうだね。鳴瀬成美で男の子だったはず。

「やだ……うそ。女の子だと思って家族三人許可出したのに――」

 あれ? 言っちゃまずかった系かな? これ……

「帰ったら家族裁判だわ」

 家族会議ならぬ家族裁判!?

「こんな夜遅くに男の子の家に行くとか――しかも今日クリスマスだよ! 

絶対ロクな目に遭わないって!」

 姫華は空になったココアの缶を逆さに振って、

「男子中学生なんて女の子にいかがわしい感情しか持ってないって言ったの

に……」

 変な事言うから、余計に男の子に対して興味が()くんじゃないかな……?

「で? もう一人は?」

 言って良いのかなぁ……

「せ、妹尾君とかいう――」

「ああ、あの子? あの子は良いわ、可愛いし別にやらしい事しそうじゃ無

いし」

 ああ。別に愛理ちゃんを束縛(そくばく)しているわけでは無いのね。

「私もね……あの子みたいな男の子だったら、まだ好きになれるかもしれな

いの」

 オタクとして二次元の道を歩むのではなかったんですか?

 ――とかいじわるな事は言わないで、

「姫華は多分モテると思うよ~」

 唇ペロンだけで男子めちゃくちゃ振り返ってたし……

「どうせなら裕海ちゃん限定でモテたら良かったのに」

 数十人の私に囲まれた姫華を想像して軽くブルっときた。流石に自分でも

大勢に囲まれるのはちょっと……

「裕海ちゃんどうしたの?」

 いえ、何でもございませんことよ?



 家に帰るまで話題をコロコロ変えた事もあってか、姫華は愛理ちゃんがど

こに行ったかの話題の内容はもう完璧に忘れているようだった。

 どうせ思い出すんだろうけど……愛理ちゃん、頑張れ。

「あれ~? 裕海お姉さんじゃないですか~」

 足をふらつかせた愛理ちゃんがにこやかに手を振りながら歩いて来た。

「愛理!」

 玄関に入りかけていた姫華が飛び出してきた。

「ゲ! お姉ちゃん」

「ゲ! とは何よ、シゲミ君とは仲良くできましたか? このリア充ちゃん?」

 愛理ちゃんは「ハッ」と私を見た。

 私は手を合わせて、必死に申し訳無さそうな表情を作って見せた。

 ――本当ごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ