第八十二章:真っ白な雪の中で
「ほら、これで暖まって」
梨花はストーブをつけ、私を目の前に座らせてくれた。――さっきまでの
凍えるような地獄から開放され、まるで天国にいるようだった。
「女の子は身体冷やしちゃ良くないんだよ! むしろ悪いんだよ。って言う
か男女問わず人間って生物は身体は温めたほうが絶対いいんだから!」
梨花は少々支離滅裂な心配の混じった怒りを、私にずっと浴びせていた。
でも……梨花に会えて良かった……♡
「もし裕海の身体に何かあったら……私、許さないんだからぁ……!」
梨花に抱きしめられた。頬を伝って涙が溢れてくる――私は梨花の涙を拭
い、
「梨花……遅くなったけど、メリークリスマス」
私は鞄から綺麗にクリスマス用ラッピングをされた包みを出し、梨花に渡
した。
「裕海……」
梨花はそれを受け取ると、「ちょっと待って」と言ってからリビングを出
て階段を上っていった。
梨花は昨日の朝見せてくれた綺麗な箱を両手で差し出し、
「メリークリスマス裕海。次はちゃんと受け取ってね?」
もちろん! 私だってもうプレゼントあげたもん。
私のプレゼント……梨花な気に入ってくれるかな? 梨花のプレゼントは
いったい何なんだろう?
――私の頭の中はもうそれでいっぱいだった。
私たちは「せーの!」で包を開け、中身を取り出した。
――すると思いもよらぬ事に……
「あら……?」
「まぁ……」
なんという偶然か……それとも神様のお導きか、私たちが取り出したプレ
ゼントの中身は二人とも全く同じものだった。
――違いと言えば、さっき追加で入れたクッキーが梨花のはチョコレート
だったっていうくらいで、主なプレゼントは全く同じで……
「クスッ……」
「ふふっ……」
思わず笑い合ってしまった。――え~? 私もしかしたら梨花に怒られる
かと思ったのに~
「裕海と全く同じだなんて――何か嬉しいっていうか照れくさいっていうか
……♡」
私は嬉しそうに頬を染める梨花を見て、
「じゃあ……今からかぶってみようか」
私と梨花は顔を見合わせ、お互いのプレゼントを頭にかぶった。
――クリスマスって感じがして、可愛くて凄くいい……♡
「裕海……似合ってる、可愛いよ」
「梨花も……凄く可愛い」
梨花と見つめ合い、ふと窓の外を見ると――
「わぁ……! 見て梨花!」
「雪……」
私たちはそのままの格好で外に出た。綺麗な空から白くて綺麗な雪がチラ
リチラリと振っている。
――地面に落ちては溶け、落ちては溶け――冷たっ!
「裕海ぃ……今、鼻の上に落ちてきたでしょ」
梨花はクスクスと笑って私の鼻先を拭った。
――雪の中このお帽子かぶってるとか……
「本当にサンタさんみたいだね」
私と梨花のプレゼントは何の偶然か二人とも真っ赤なサンタ帽だった。な
んて言うか、多分お互いに愛しい恋人さんにかぶってもらいたいな~なんて
思いがそれを選ばせたんだと思う。
――でも綺麗にかぶったのはびっくりした。帽子だけにかぶる……すみま
せん、くだらないこと言って。
雪。どんどん高まる高揚感。愛しい恋人さん。クリスマス。――今のムー
ドは最高だった。二人の目が合い、程よく頬を染めた愛しい恋人さんの顔が
目に入る――この雰囲気ですることはただ一つ――
「梨花……」
「裕海……」
重なり合う二つの唇。両手の指を絡め合いながら、ゆっくりと口内へと舌
を滑り込ませていく。
湯気が出そうなくらいに高揚した心も身体も、振り続ける真っ白な雪によ
り冷まされる――
「はふ……♡ んぅ……ん~……」
お互いの身体を近づけ合い、全身で体温を感じ合う――手の指は離し、お
互いの背中に腕をまわして力強く抱きしめ合った。
可愛らしい恋人さんの息遣いが耳元に届く。温かく甘い吐息が口元を湿ら
せ、地面には溶けながらも――ゆっくりと白い結晶が積もっていく。
冬なのに凄く温かい。鼓動はどんどん速くなっていくし――二人の間では
物凄く愛らしい音がずっと響いている。
――クリスマスの魔法って、こういうムードの事なのかな……
しかし私たちは温かく心から心地良いと思えるキスの魔法で、若干注意力
が失われていたらしい。
「あら梨花」
突然の声にびっくりして、私と梨花は顔を離した。
――だけど愛らしい糸が二人を繋ぎ、今まで梨花と私が何をしていたのか
をしっかりと証明していた。
「母さん……」
「梨花っ! おっと、お客さんかい?」
梨花のご両親揃ってのご登場。何これ……私一瞬にして危険地帯に突入で
すか?
顔を紅潮させた二人の女の子。しかもサンタ帽子をかぶって超深いキスを
していた。――片方が自身の愛娘。
ヤバい。殺される……
「あ、あのっ……そのっ……」
無理……ボーっとして声が出ない。あれ……? 私そんなに舞い上がっちゃ
ってたのかな……?
「裕海!」
私を呼ぶ梨花の声を最後に、私は梨花の家の玄関外で気を失ってしまった。