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第八十章:クリスマスの試練

 梨花と付き合ってから――私は人のために何かをするっていう事をほとん

どしていなかった気がする。今回もそれが原因だ――梨花が完璧すぎて、私

は梨花に甘えてしまっていた。

 だから今回は、自分に対しての反省としても――梨花が喜ぶようなプレゼ

ントを十二月二十五日が終わるまでに絶対探してくる!

 何だか少年漫画の主人公のようで興奮してきてしまい、(あわ)てて深呼吸した。

 ――いい? 私は遊びに行くんじゃ無いの。(いと)しい大切な恋人さんを裏切

り、悲しませてしまったそのつぐない――自分への試練をこれから行いにい

くのよ。

 私は学校付近の駅ビルに向かい、クリスマス系統の物を探しに行った。



「無いなぁ……」

 駅ビルの喫茶店で紅茶を飲みながら、私は大きな窓ガラスからビルの下を

見てみた。クリスマスカラーなイルミネーションに、道行く人間みんなカッ

プルカップルカップルと――

 去年までの私が見たら、灯とやけ食いでもしてたんだろうな……

「あれ? 裕海じゃん」

 振り返ると丁度そこには灯がいた。おお! なんて偶然、一緒にプレゼン

ト探すの手伝っ――

「どうも。こんにちは」

 灯の後ろから見慣れた男の子が出てきた。――えーと、あれは確か……

「銀士だよ」

 ああ! 灯の彼氏さん。

 灯はキョロキョロと辺りを見渡し、

「あれ? 氷室(ひむろ)さんは?」

「氷室さんはいないです」

 灯は顔を赤らめ、

「もしかして……蒔菜梨花(まきなりんか)って名前になったとか?」

 違っ……! どうしたの灯? 今日なんかやけにテンション高くない?

 灯は「当たり前でしょ?」とでも言うように、自身の彼氏さんをグッと引

き寄せた。

「ああ……そっか」

 灯はそのまま手を振って奥の席へと向かって行った。――いつまでもここ

にいちゃ悪いよね……

 私は紅茶を飲み干し、軽く溜息(ためいき)をついたあと碧町(みどりまち)付近の駅ビルへと向かう

ことにした。



 碧町駅に着き、私はその辺りのショーウィンドウなどをぶらぶらまわって

みた。だけどこれといってとくに気になる物も無く、散々まわったあげく―

―もう辺りが少し暗くなってきてしまっていた。

「あれ? 裕海お姉さん」

 振り返ると私服姿の愛理ちゃんが可愛らしくペコッと頭を下げた。

「愛理ちゃん……今日はどうしたの?」

 愛理ちゃんは顔を赤らめ、

妹尾(せのお)君と鳴瀬(なるせ)君と萌美(もえみ)と一緒に遊んだ帰りなんです」

 萌美って人が誰かは知らないけど、多分どちらかの事が好きな女の子だと

いうことは予測できた。――とりあえず修羅場んなくて良かったね。

「裕海お姉さんはこんなところで何してるんですか?」

 あー……

「そうだ。愛理ちゃんちょっと手伝ってくれない?」

「何をですか?」



 愛理ちゃんに今日あったことをかいつまんで話すと、愛理ちゃんは難しそ

うに溜息をつき、

「はー……やっぱ高校生の恋愛って違うのですね。クリスマスプレゼントで

すか、妹尾君も鳴瀬君も萌美もそんな話一っ言もしてませんでしたよ」

 下手すればまだサンタクロースを信じているかもしれないしね。特に男の

子なんかは。

 ――ちなみに言うと、愛理ちゃんには梨花は男の子だと言い、家に泊まっ

た事は言わなかった。背伸びしたいお年頃に悪影響(あくえいきょう)になるような事は吹き込

まないほうがいいからね。

 愛理ちゃんは「はーっ」と手袋に息を吐き、

「でもそういうのは、人に聞くことでは無いかもしれませんね」

 愛理ちゃんは空を見上げ、

「もし私が大好きな男の子から何かを(もら)ったとして――それが他の子が選ん

だ物だって知ったら、(すご)く悲しいですもん」

 私は梨花からもらったマフラーを思い出した。確かにそうだ、あれがもし

梨花では無い別の誰かが編んだもの――もしくは買ってきた物だったとした

ら、私は多分あそこまで喜ぶことはできなかっただろう。

 愛理ちゃんは空を見上げたまま、

「こういうのは、自分で探した物の方が喜ばれると思いますよ」

 愛理ちゃんはにっこりと笑顔を見せ、

「なーんて……中学生の私が何えらそうな事言っちゃってるんですかね」

 照れくさそうに笑う愛理ちゃん。ううん。愛理ちゃんの助言は正しかった。

危ない、これでは全然試練にも反省にもならないまま梨花のところへ行って

しまうところだった。

「愛理ちゃん!」

 私はびっくりした表情の愛理ちゃんの手を握り、

「ありがとう!」

 私は明日探しに行くことにした。今日はもう遅い……

 ――クリスマスの神様。どうか私に素晴らしいプレゼントを見つけさせて

ください。

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