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第八章:休日

「裕海、大好き」

「私もよ、梨花」


 二人だけのベッドの上でシーツ一枚に身を包み、私と梨花は精一杯の愛念を込めてお互いを抱きしめ合う。服の上からでは分からない温もりと感触が全身を包み込み、私の胸は最高に高鳴った。


「梨花ぁ……!」

「あっ……裕海ぃっ!」


 両手を繋ぎ、顔を近づけ合う――愛しい愛しい梨花の顔が、もう数センチってとこまで近づいて――。


「……………」


 夢か――ちょっと残念だな……



 ---



 私は着替えながら、今後の予定を考えていた。梨花と会えない二日間――誰とキスをすれば良いんだろう……今日は霊能者さん所へ行くからなんとかなるにしても、明日だよなぁ~問題は。




「こんにちは~」


 約束通り、わたしは約一週間ぶりに霊能者の所へ来た。


「いらっしゃい、待ってたわ」


 この間と同じ霊能者さんは、私の来訪を快く迎え入れてくれた。前回と同じよう

に座布団に座ると、彼女は怪しい儀式のような物を始める。

 しばらく私の背後をじっと眺めていたが、脱力したように肩の力を抜くと、フゥっと息を吐き、儀式をやめた。


「少し弱まってるわね……周りの人を巻き込む力はもう無いわ――でもまだ続けないと、いつ力を取り戻すか解らないわ」

「まだ壺に閉じ込められないんですか?」

「一週間で何とかなるような霊じゃ無いわよ……もう普通の背後霊がこれくらいなら――」


 霊能者さんは両手で小さな円を作った。


「あなたのはこ~んなのですわ」


 両腕を回して表現した。すいません全然分からないです。


「じゃあ……今日は私がキスしてあげましょうか」


 前回とは違い、躊躇無く私もそれに応じた。梨花とのキスに比べると――浅く短いキスだったが、別に悪い気はしなかった。


「あら……? キス……上手くなったわね」


 霊能者さんは顔を赤らめた。


「こんなこと言うのもなんだけど……。良いわ凄く――凄く気持ち良い……」


 喜ぶべきことなのか分からないけど、なんだか嬉しい。

 梨花はもっと、気持ちよくなってくれてるのかな……? 私は梨花とキスするの――凄く気持ち良い……大げさかもしれ無いけど、今の私には梨花無しでは生きていけないかも。


「じゃあ、今日はこれで良いわ……。キスもちゃんとやってるみたいだし、また何かあったら連絡頂戴」

「あの……明日って開いてますか?」


 霊能者さんはさも残念そうに、


「ごめんなさい、明日はお休みなの――週三回どこかでお休みをとることにしてるから」


 私は仕方なく、明日の事を考えながら霊能者の部屋をあとにした。



 ---



 日曜日の朝、私は起きてからずっとキスの事ばかり考えていた。ここだけ見ると私が色情魔みたいに見えるけど、全然そんなこと無いからね!

 せっかく霊の力が弱まっているのに、ここで復活しちゃったらもう元も子も無い……。とりあえず誰か探さないと――。


「お姉ちゃん何か探し物?」


 志央ちゃんがクマのぬいぐるみを持って部屋のドアの側に立っていた。

 今起きたのか、透き通るように純正な瞳を擦りながら、可愛らしく大あくびをしている。


「ううん、別に大丈夫――」

「お姉ちゃん! 後で一緒に遊ぼう!」


 こんなキラキラした目で見つめられて、断れるわけ無い。

 ……多いなー、私の弱点……。




「じゃ、何して遊ぶ?」


 朝ごはんが終わり、志央ちゃんが服の(そで)を引っ張った。

 私はてっきり、外で遊ぶのかと思ったが――。


「おままごと!」


 インドアな遊びで良かった。汚れてもいい私服はあるけど、こんな真昼間からそんな服装で外に出るわけには行かないもんね。

 志央ちゃんはリビングにマットを敷き、持っていたおもちゃや人形を並べた。ミニカーとか竹とんぼまであるけど……。


「これ一緒のお教室のかーくんから貰った~! こっちはさっちゃんで~……あー、あれはゆーくんにあげたんだったー」


 聞かなくても色んな事を話してくれるから退屈しなくて良いけど……。遊んであげるって言って、側で静かに本を読もうと思った私の計画は無残にも崩れ去った。


「お姉ちゃんはパパの役ねー! わたしはママー! もぅ~ビール飲んだらちゃんと片付けてって言ってるでしょ~!」


 へ~……。おばさんこんな風にいつも怒ってるんだ。家はお父さんが長期出張で家にいないから何か新鮮だな。


「パパ~! もうすぐ会社に行く時間ですよ~! ほら、いってらしゃいのちゅう!」


 おばさん……あなたこんな小さい子の前で何してんですか、幼稚園で真似しちゃったら困るでしょうが。


「う~! 早く、して!」


 今私の脳裏には凄く悪い事が浮かんだ。今キスしてしまえば今日はもう気にしなくて良い――もう一つは、絶対そんな事を考えてキスしたら罪悪感が残るって事――。


「ちゅぅ~!」


 そうこう考えている内に、ほっぺたに熱烈なキスをされた。……だよね、分かってた。うん。

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