第七十七章:梨花の家族
梨花との甘い時間を過ごしていると、玄関が開く音がして聞いたことの
無い男の人の声が聞こえた。もしかして梨花のお父さんかな?
「梨花っ! 私あいさつしたほうがいいかな?」
梨花はベッドに寝転がりながら嬉しそうに目を細め、
「娘さんを私にください! って言ってみて~♡」
「もう……♡ 梨花ったらぁ……」
梨花とともに階段を下り、いざリビングへ! というところで梨花が私
をリビングのドアの前で待っていて、と止めた。
梨花はドアを少しだけ開け、そっと中に入ると――
「もぉ~! お父さん、お友達来てるんだから下着姿でウロウロしないで
よ! お母さんも! 裕海ちゃんがあいさつしたいって!」
普段とのギャップに思わず吹き出しそうになってしまった。梨花が前に
言ってた「信頼できる相手の前では素の自分を出せる」って言うのがなん
となく納得できた。
「可愛いなぁ……」
しばらくして梨花がドアから顔を出し、コホンと咳払いをした。
「裕海、入って」
「こんにちは~」
リビングに入って最初に目に入った梨花の父親を見て、私はまた驚愕す
る事になった。
若っ! 母親も若かったけど……お父さんあなたまだお兄さんじゃ無い
ですか? っていうくらい若かった。凄い、いくつなんだろう……
「どうも、梨花の父親です。娘がお世話になって――」
いえいえ、私こそお世話になりまして! ――いつも娘さんにはあんな
ことやこんなことを――なんて言うわけ無いでしょ。
「梨花ったら、凄く仲良しさんなのよ」
梨花の母親も嬉しそうに目を細め、
「本当……いついらいかし、ら……」
梨花の母の目がまた潤み始めた。
「お母さん! 裕海ちゃんが引いてるよ!」
家族の前では「ちゃん」付けなんだ~、何か嬉しい。ふとオタクな幼馴
染の顔が浮かんだけど、今は梨花に集中したいので頭の中から消し去った。
家族三人のご飯に私も同席させてもらい、いろいろと梨花の話とか私自
身の話をして盛り上がった。梨花のご両親はどちらも有名大学出の超エリ
ートさんだった。
綺麗だし頭も良いなんて、まるで梨花みたい――と言おうとして、そりゃ
血が繋がっている親子ですもんね。と頭の中で自己解決させ、変なことを
口走らずに済んだ。
実の親にそんな事言ったら、「え?」って反応されるに決まってるよね
……気づいて良かった。変な子だと思われちゃうところだったよ。
「ところで裕海さんはどちらの大学を志望なさってるの?」
梨花の母さんからの突然の質問に私は戸惑ってしまった。――え? ま
だ高二だからそんな事全然考えて無いんですけど……
普通は考える物なんですか?
「えーと……」
助けを求めようと梨花の方を見たが、お味噌汁を静かに飲んでいる。私
の視線には全く気づいて無いらしい。目覚めよ! 私の目力。――なんて
ふざけてる場合じゃ無い、どうしよう……
私が必死に言葉を探していると、梨花はお味噌汁をコトりと置き、
「裕海は私と同じ大学に行かない? って誘ってるの」
あ、それ言って良かったんだ。――まあ友達同士ならそういう会話して
てもおかしく無いもんね――ちょっと焦りすぎた。
四人での晩ご飯が終わり、私は梨花のベッドの上で転がっていた。梨花
はお風呂を沸かしてくると言って、まだお部屋に戻ってこないし――
「何か疲れたなぁ……」
私はしばらくゴロゴロと転がっていたが、梨花の甘~い匂いと背中に感
じるふかふかな感触に耐え切れず、そのまま眠ってしまった。




