第七十五章:突然の来訪者
次の日は朝からハイテンションだった。起きた瞬間ニヤニヤが止まらな
くなり、こんな顔を見せられず。朝は両親に顔を合わせられなかった。
梨花の家にお泊り! しかも今日は十二月二十三日――いわゆるイブイ
ブとかいう日。梨花とスペシャルに甘~い二日間を過ごすんだ~♡
え? 何で二日間かって? なんか梨花の家は両親共にそういうイベン
ト事を大切にする人らしくって、イブと当日は家族水入らずで過ごすって
決まってるんだって……
まあうちも言われるだろうから、別にいいんだけどさ。
私はお気に入りのカーディガンを羽織り、普段はつけないようなちょっ
ぴり派手なリボンを付けて家を出た。――母から冗談で男の子とデート?
と聞かれたけど――違うんですよぉ……
南駅からバスで数分。バス停からは歩いてすぐのところにある梨花の家
は、やっぱり何度見てもうちより大きくて立派だった。
周りに建っている家も似たような家ばかりなので、うちより少々高級な
建売住宅でも買ったんだろう――なんてオバサン臭い事言ってみたり。
「梨花っ!」
玄関の呼び鈴を押すと梨花が出てきたので、私はドアを閉めるなりすぐ
に飛びついた。
「久しぶり! 会いたかったよ~!」
梨花は私を抱きしめながら、
「まだ二日だけじゃん。年末年始とかどうするのよ、もぅ……♡」
と、嬉しそうだった。
「えへへ、梨花だ~い好き」
お互いを見つめ合い、視線がちょっと下がった。ほどよく湿った柔らか
そうなプルッとした唇。――梨花の対応から今はご両親いなさそうだし、
っていうか……このムードで我慢なんてできない!
「んちゅぅ……♡ ん~……♡」
ゆっくりと舌を絡め合い――そのままお互いに口中を舐め回す。温かい
感覚とねっとりした甘~い感触を楽しみながら、ふわふわする幸せ世界へ
ととろけていった。
「ん……♡ はふ……んはぁ……♡」
温かくなめらかな吐息が触れ合い、湧き上がる感情は止まることを許可
しなかった。指先同士が触れ合い、脚も絡め合い――舌と舌が織り成す絶
妙な心地よさに、感覚がどんどん奪われていった。
「裕海ちゃんっ……♡ 好き……大好き」
「はふ……♡ 梨花……好き……♡」
思わず愛を確かめ合ってしまう雰囲気。ああ……もうこのままずっと舌
で繋がっていたい――
「あら? 裕海さん……来てたんですか?」
私と梨花はバッと顔を離した。キスに夢中でドアが開いたことにも気が
つかなかったらしい。――この声は多分梨花のお母さんだよね……?
「ふぁ!? か……母さん?」
梨花が甘ったるい吐息をかけながら、トロ~んとした目で来訪者の方を
眺めていた。私は玄関のドアに背を向けていたので、梨花の母親がどんな
表情をしているのかは分からない。
――でも多分。絶望とか軽蔑とか……汚い物を見る目で見てるんだろう
な……女だからとかじゃ無く、帰ったら愛しの愛娘が玄関で他人とキスし
てるとか――普通の親なら相手の子を張り倒したりするんじゃ無いか。
――二度とうちの子に近寄らないでっ! とか言われちゃうのかなぁ…
…
「あら、ごめんなさい邪魔しちゃって。でもね?」
おっとりした口調だったが、多分怒ってるんだろうなぁ……
「玄関はやめてよ。お母さんびっくりしちゃった……梨花と裕海さんがそ
んなに仲良しさんだったなんて……」
ん? 怒ってない――っていうか、何か論点がずれてるっていうか……
「梨花! ラブラブさんなのは分かるけど、そういうのはお部屋でやりな
さい、びっくりするわよ。突然帰ってきたら自分の娘が愛を囁いて――」
「分かったわ! 裕海っ……とりあえずお部屋行こっか?」
梨花は私の手を引き、耳まで真っ赤にして階段を駆け上った。
バタン。と自室のドアを閉めると、梨花は脱力し床に座り込んだ。
「もう私母さんと顔合わせられないよ~……」
梨花は紅潮した顔を両手で覆い、
「裕海ぃ~……♡ もっとして、忘れさせて~」
見られてすぐ「しよ?」って言えるとか、梨花って実は結構神経図太い
んじゃ無いか? なんて思いながらも、私は梨花の顔に近づき、
「顔覆ってたら出来ないよ?」
梨花が顔を見せると――ほんのり赤くなっており、思わず見とれてしま
うくらい色っぽかった。
「梨花……♡」
「裕海ぃ……」
梨花との本日二回目の甘~いキス。さっきと同じく、温かい吐息となめ
らかな舌がとろけ合い――お互いの舌がくっついてしまいそうだった。
「ぴゅはっ……♡」
舌を抜いた瞬間、糸が切れた。――極上の感覚に身体の底からドキドキ
してくる。
「はぁ……♡」
梨花は幸せそうに私を見て、しばしたってから、
「はぁ~……」
と溜息をついた。




