第七十四章:継続は力なり!
前日姫華とあんなことになってしまったので、私はキスをする相手がい
なくなってしまい、仕方なく霊能者さんの所へと向かった。
自転車にまたがり十分間。最初来た時のように車に轢かれかける事も無
く、信号も気前よく綺麗に変わってくれて――予定より少々早く着く事が
できた。
「こんにちは~……」
霊能者さんは前に来た時と全く変わらぬ笑顔で、
「あら久しぶり、じゃあまず背後霊が壺に閉じ込められるか確認してみま
しょうか」
霊能者さんは怪しげな儀式を行い、私には見えないけど霊能者さんは背
後霊が見えるらしく――しきりにお札と壺を眺めていた。
「力はだいぶ弱まったわ。もうあなた自身に害を及ぼすことも無いし、ん
ー……まぁ一日や二日キスしなくても復活はしないと思うわ」
これで私は普通の生活を――
「でもキスしないと徐々にパワーを取り戻していくから注意してね?」
「え? まだキスしないと駄目なんですか?」
霊能者さんは静かに頷くと、なにやら怪しげな巻物を持って来た。
――寿司じゃ無く、文字が書いてあるほうですよ?
「蒔菜さん。これがあなたと同じ呪力を持った背後霊の記録なの」
巻物には歴史で習ったような江戸時代? 風の絵で女の人を灰色の影の
ような物が覆っているような絵が描いてあった。
「かなり強い背後霊だから……毎日の継続が大切なのよ。継続は力なりっ
て言うでしょ?」
多分それは違う意味だと思いますよ。――思ったけど口には出さなかっ
た。
「それじゃ、今日もして行くのね?」
霊能者さんとのキス。――これは三回目か? 最初と次に一回見せに行
って――しばらく来てなかったし――
「ぷは……蒔菜さん? 大丈夫よ、もう」
半ば放心状態だったらしい、私はキスの格好のまましばらくボーっとし
てしまっていた。
「ああ、すみません」
私は自分なりに深く頭を下げ、霊能者さんの仕事場をあとにした。
「お帰りなさいませ~」
宮咲家の前をメイド服姿の愛理ちゃんが、いつも通り掃き掃除をしてい
た。本当毎回思うんだけど、何でいつも箒持って掃除してるのかしら。
――別に葉っぱが落ちてるわけでもなく、汚れているわけでも無いのに。
「そういえば……妹尾君と鳴瀬君の事だけど……」
愛理ちゃんはケロッと、
「ああ、結局妹尾君とは別れました。でも別に鳴瀬君が良いってわけでも
無いので、今二人から言い寄られる毎日なんです」
思わず私は拳に力を込めた。――いけないわ裕海。この子は別に悪気が
あって言ってるんじゃ無いのよ!
「毎日メールしてると朝になっちゃって……ようやく冬休みなので午前中
のんびり出来て良かったです」
裕海……落ち着くのよ。中学時代男の子のアドレスなんて一つも知らな
かったなんて事、この子は知らないの。落ち着くのよ、こういう時はツメ
の長さを測るのよ……
「ってそりゃキ――」
愛理ちゃんは突然の自分ツッコミにビクッとして「キ?」と聞き返して
きた。
また声に出てたー……本当に背後霊の呪力無くなってんのかしら……
私は愛理ちゃんと別れ、家のベッドにドサりと倒れ込んだ。――もう愛
理ちゃんのおノロケ話は聞かないようにするわ……




