第七十一章:裕海の日
「梨花……♡」
「あん……♡ もう裕海ったら……」
梨花の部屋に入ってすぐ梨花に飛びついた。絶対邪魔が入らないと確信
できる場所だからか、実を言うと自室で梨花とイチャつくよりもここでキ
スするほうが好きだったりする。
「梨花……大好きだよ?」
梨花をベッドに押し倒し、私は優しく梨花の唇と何度も何度も触れ合っ
た。
「好き♡ 裕海の事だ~い好き」
今日はテンションがヤバい。学校は今日で終わりだし――誕生日だし、
それを愛しい恋人さんが心から祝福してくれたし――今日私を憂鬱にさせ
る種は一つも無いと言い切ってもいいかもしれない。
私は梨花と抱き合いながら何度もキスを続け――身も心も幸せにとろけ
ながら、素晴らしい時間を過ごした。
「ああ……そろそろ帰らないと」
時計を見るともう六時をまわっていた。――多分母は早く帰って来ると
思って待っているだろうから、あまり遅くなるといけない――下手すると
姫華のご両親にも心配をかけてしまうかもしれない。
「じゃあ梨花……また」
「うん。裕海また来てね?」
私はいつも通り、帰り際に軽くキスを交わし――雪でも降りそうな寒空
の下、駅へと向かった。
「あ! 裕海ーっ!」
碧町駅の改札を出ると姫華が手を振っていた。――いつから待っててく
れたんだろう。
「姫華! どうしたの?」
姫華は携帯のGPSを私に見せた。
「こっそり登録を……」
「すぐ止めなさい。私のプライバシーゼロじゃないの」
姫華から携帯を取り上げ、なんとか一応基本的人権とプライバシーは保
護できた。家の親は何故鍵を貸したりGPS登録させたりと――こんなに姫
華の事を信用するんだろう……
「それは私が超天才だからだよ!」
私の考えている事が解るのか知らないけど――ハイハイ、飴玉買ってあ
げるから大人しくしようね?
コロコロと口の中で飴玉を転がす姫華と一緒に駅から歩き、私はもう一
度溜息をついた。
「もしかしてこれまでも姫華は私の居場所をチェックしてたの?」
姫華は飴玉を頬に寄せ、
「そんなこと無いわよ。登録したのも今日のお昼だし」
信じられないけど私はその言葉を信じるしか無かった。心の安定と安心
のためにも。
「ところで裕海ちゃん……南町に何しに行ったの?」
あなたっていうひとは! いつから私を調べていたのよ。
「梨花の家よ。別にいいでしょ? 恋人さんの家に行ったって」
「そっか。お泊りしないで戻って来てくれたんだ」
姫華は少し嬉しそうに私を見て――
「ちゅぅっ……♡」
姫華の舌と同時に飴玉が口の中に転がり込んできた。
「んむぅっ……!」
姫華はフッと唇を離し、
「ほら――もうすぐ着くよ? 早く飴玉舐め終わらせちゃいな」
私は姫華味の飴玉をコロコロと口の中で転がしながら、姫華と一緒に私
の家に入った。
「ただいまー……」
「戻りました~」
私と姫華が家に入ると私服を着た愛理ちゃんが、パタパタと走ってお出
迎えしてくれた。――流石にメイド服は着てないな。ちょっと安心した。
「お帰り、遅かったわね」
母に鞄を預け、私はリビングへと向かった。――愛理ちゃんがいること
から推測するに、多分――
「お帰り、裕海」
数ヶ月ぶりに父親に会った。――長期出張でずっといなかったから、実
を言うと顔を少し忘れかけていた。――危ない危ない。
「お帰り、裕海ちゃん!」
姫華のご両親も――あの、もう私高二なんでそこまでおおごとにしなく
て結構ですのよ?
簡易テーブルまで出して、総勢七人での夜ご飯となった。ちょっと恥ず
かしいけど、別に悪い気はしないかもしれない――年頃にしては少し変わ
ってるのかもだけど――別にいいよね?
「裕海ちゃん……口についてる」
姫華に言われ、唇の右の方を指でひっかいたが――
「そっちじゃ無くて――はむっ……♡」
左側についていたご飯粒を口でとられた。……一瞬で多分誰にも気づか
れてはいないと思うけど、さりげなく舌で舐め取られた。
愛理ちゃんは微笑ましそうに「もー、お姉ちゃんったら~」とか言って
るけど、多分愛理ちゃんが思ってるほど単純じゃ無いと思う。
姫華はどうしてこんな身内のいる目の前で堂々とこういう事ができるわ
け……?
「美味しかったよ……裕海ちゃんの――」
甘くくすぐったいボイスが耳に触れ、ゾクついた。――もういろんな意
味でお腹いっぱいかも……




