第七十章:大切な日
私と梨花は空き教室で座ったまま、しばらく唇同士をくっつけたり離し
たりしていた。いつもは廊下が騒がしかったりするけど――今日は誰もい
ないのか、凄く静かだった。
「ちゅっ……♡ ねぇ裕海?」
梨花はキスを止め、鞄をあさりだした。
「違ったらごめん。――お誕生日おめでとう!」
梨花の手の上にはピンク色の長いマフラーが乗せられていた。――うん?
間違いじゃ無いよ。でも何で梨花がそれを知ってるの?
「誰かから聞いた……?」
梨花は携帯を取り出し、
「アドレスに1220って入ってたからそうなのかなぁ……って」
ビンゴ、大当たり。――凄い梨花、恋人さんじゃなかったら若干怖いけ
ど。
「でね……前に言ってた二人用のマフラー……」
「編んだの!?」
梨花は顔を赤らめ下を向き、
「う……うん。ずっと頑張ってたんだけど……先週テストあったせいでな
かなか進まなくて、ごめんね? このところ放課後冷たくて……」
昨日思った。自分から言うのもなんだしな……って考えてたら、梨花に
教えるのをすっかり忘れていた。でも梨花は――
「ありがとう、梨花」
私は梨花の頬に軽く唇を触れ、
「一緒に巻こう?」
温かい。凄く温かい――もうヤバいくらい、鼻血出そうとかそういうレ
ベルじゃ無くて――このまま体温上がって気絶しちゃうんじゃ無いかって
くらい心も身体もポカポカだった。
――梨花の手編みマフラーだよ? 愛しい愛しい恋人さんが毎日愛を込
めて編んでくれて――しかも二人で一緒に巻かれるとか……ここが天国で
すか?
「裕海……温かい?」
温かいです。むしろ熱すぎるくらい。
「温かいよ――梨花は?」
「私も凄く温かい……♡」
梨花と身体がぴったりくっついて――しかもこれ、私のためにプレゼン
トしてくれたんだよね……凄く嬉しい。
「梨花の誕生日はいつなの……?」
これで過ぎてたらどうしよう! とか思ったけど――
「二月二十七日よ、凄く変な時期だけど」
「そんなこと無いよ!」
えへへ……何か嬉しい、二人とも冬生まれかぁ……梨花の誕生日には何
をプレゼントしようかな? 私は梨花みたいに手編みとかできないし――
「ねぇ裕海……♡」
耳元に甘いボイスを感じた。――何? 梨花……♡
「んんっ……!」
マフラーを巻いたまま梨花との甘いキス。舌は入れず、優しく唇を受け
止めるような温かくて心地が良いキス――
「んっ……♡」
柔らかくて甘い唇同士が触れ合い、凄く幸せだった。私はマフラーの下
に腕を通し、梨花の背中に手をまわした。
「んちゅぅ……♡ んっ……ちゅぅ……♡」
愛らしい音をたて、私と梨花はマフラーで繋がったままのキスを堪能し
ていた。普段してるキスより凄く気持ちが良い――
「ぷはっ……はぁ……♡」
満足しきった可愛らしい表情が目に入った。――続きは家とかでやりた
いな……ここ床も固くて冷たいし。
「泊まれないけどさ……今日も梨花の家行っていい?」
梨花は嬉しそうに、
「愛しい恋人さんのお願いを断るわけ無いでしょ?」
私はその吸い込まれそうになるような笑顔をしばらく見つめ、ハッと現
実世界に戻されたところで梨花と一緒に学校を出た。
「でも良かった……裕海の誕生日間違って無くて」
梨花は電車に乗りながら安堵した表情で言った。
「まぁ……違ったらクリスマスプレゼントです! ってごまかすつもりだ
ったんだけどね……」
珍しく梨花は電車の中でも表情豊かだった。メガネもかけて無いし――
そんなに嬉しかったのかな?
「裕海は……今日は家族で過ごすの?」
梨花の少し寂しそうな顔を眺めながら――私は静かに頷いた。
「あと多分……姫華の家族も」
「幼馴染だもん、仕方ないよ……」
梨花のその言葉を最後に、私たちは電車内では一言も言葉を交わさなか
った。




