第七章:下校
ん~……今日は変な夢見なかった。
「あら、今日は元気そうな顔してるわね」
朝ごはんを食べながら、母は嬉しそうに私の顔を見た。
「霊に取り憑かれたなんて……本当心配だったけど、流石霊能者さんね!」
霊能者さんがしたことって一回目のキスだけじゃん――。
「昨日電話があってね、また明日の土曜日来てくださいって言ってたわよ」
「へ~何時頃?」
「ん~……五時頃だったかしら……」
「ゴホッ……ゲホッ」
私は思わずむせた。丁度梨花とイチャついてた時じゃん!
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「裕海! 先に言うけど今日は先帰って良いよ!」
朝来て最初の言葉がこれだ。本当分かり易い子だなぁ。
「文田君?」
「もち!」
灯ったら顔、緩みまくりだよ~……まてよ、じゃあ私も昨日あんな顔してたんだ――。
そう思うと、少しだけ恥ずかしかったり。
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放課後、いつも通り梨花が声をかけてきた。
「裕海、今日はどこでする?」
もう梨花はキスするのが日課になっているようだった。何か私も梨花とキスするのは嫌では無く――むしろ嬉しいので放課後が最近凄く楽しみになっている。
「今日は人も多いし――空き教室にしよっか?」
「良いよ」
私は梨花と手を繋ぎ、人気の無い校舎へと歩いて行った。
「ああ、二人とも――今日はそっちの校舎は入れないわよ」
授業を受けたことの無い教師が私たちを呼び止めた。
「エアコンの修理が入ってるから立ち入り禁止なの、ごめんなさいね」
それだけ言うと職員室の方へ走って行った。
「…………」
「今日は止める?」
梨花は残念そうに呟いた。それは困る! せっかくキスする相手を見つけたのに!
「嫌! 梨花とキスしたいもん!」
数秒の沈黙の後、お互いの顔が真っ赤になった。
「えぅっ……違っ――違わない――えーと……」
「裕海、ついて来て……!」
梨花は下を向いたまま私の手を引っ張った。
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「屋上……?」
「放課後はほとんど空いてるわ――私もよく本を読みに行ってたし」
梨花の言った通りお昼の盛況さとは正反対に、誰一人としてその場に存在していなかった。
「放課後はみんな部活か帰宅しちゃうからね……」
もう涼しさを感じさせる風を受け、お互いの温もりを我慢出来なかった。
「梨花っ……!」
「裕海……」
梨花の胸に抱かれ、身体がポカポカしてきた。梨花の鼓動と息遣いが聞こえる……もう我慢出来ないみたい――。
「ちゅっ……んんっ――」
身体を梨花に預け、私は梨花との距離を無くした。全身を密着させ、軽く優しいキスを何度も何度も重ねた。
「今日のキス……凄く気持ちいいよ……」
「私も……何かボーッとしてきた……」
延々と続く唇へのソフトタッチ、その感覚が堪らない――私たちは身体が冷えるまでずっとキスを続けていた。
「そろそろ冷えてきちゃった……」
「私も……でも、凄く温かい」
身体は冷えちゃったけど、私たちの心の中はやけどしそうなくらい熱かった。
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「あっ……そうだ。今日灯いないんだった」
教室に戻る途中、私は朝の事を思い出した。
「双海さん……どうかしたの?」
「うん――ちょっとね」
私は遅い時間に一人で帰るのは初めてかもな~なんて事を考えていた。
「じゃあさ、一緒に帰ろうよ」
「ふへ?」
「せっかく付き合ったのに、そういえばまだ一度も一緒に帰ったこと無かったじゃん!」
言われてみれば……って言うか付き合ってまだ三日じゃん! キス何回した? えーと――今日だけでいくつしたかな……。
「ね? いいでしょ?」
この甘~いボイスには勝てない……まぁ、良いかな? たまには別の人と帰るのも。
「じゃ、帰ろっか」
「うん!」
「家、方向同じかな?」
「駅までは同じじゃないかな? この間会ったでしょ?」
はたから見れば普通の友達同士――なんだろうなぁ……まさか毎日キスする関係だとはすれ違う通行人、誰一人として思いもしないだろう。
「どっち行き?」
「北だよ、碧町」
「ああ~っ! 逆だっ……私、南」
私たちは改札で別れ、それぞれの電車に乗った。さて……休日のキスはどうしようかな……。
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「ただいま~」
「あ、裕海お姉ちゃんだ~ おかえり~」
従姉妹の志央ちゃんがお迎えをしてくれた。珍しい、家に来てたんだ。
「あらお帰り、裕海」
「ただいま、あれ? おばさんは?」
母は無言で私を手招きした。
「病気!?」
母は無言で頷いた。白内障だか緑内障って言う目の病気らしい、手術中は叔父さんが付き添いたいから――という理由で週末だけ志央ちゃんを預かることになったらしい。
「命にかかわる手術じゃ無いって言ったたけど……」
「心配だね」
「でも志央ちゃんの前ではそんな顔するんじゃ無いよ」
「はーい……」
これもまさか……私の背後霊のせい――いや、考え過ぎか。
「おばさん、お姉ちゃん――何話してるの?」
「志央ちゃ~ん、晩御飯何が食べたい?」
「ハンバーグ!」
「じゃあそうしようか、裕海手伝って」
私は頷き、部屋に着替えに戻った。