第六十八章:ちょっとしたイタズラ心
私はさっき言った事を取り消したかった。何故って? 別に良いの、三人
で談笑してお昼ご飯を食べられたら嬉しいなって――でもこれは……
「裕海? 狭くない?」
「裕海ちゃんっ♡」
両側から姫華と梨花の背中同士に挟まれる――と言う妙な体勢で私はお弁
当を食べていた。肩にグリグリと背中が当たってきて少し痛い……
「裕海、狭かったら遠慮無く言ってちょうだい、そっちの場所を多く取るお
姉さんに少し離れてもらうから」
「裕海ちゃんは狭くないよね? ほっそりしてて綺麗だし――でももし狭か
ったら言ってね? あっちの目つきの悪いお姉さんにどいてもらうから」
私の目の前でバチバチと火花が散っている。――そんな敵対心丸出しにし
なくてもいいのに……
普段より食べにくい状況でようやく食べ終わった私に待っていたのは、ま
たしても選択する――と言う試練だった。
「ねぇ裕海、キスはしないと困るんだよね?」
姫華は唇を舐め、
「たまには他の人とするのも、気持ち良いと思うよ?」
じりじりと迫ってくる二人。私は壁へと追いやられてしまった。
「裕海? いつも通り私としよ?」
「裕海ちゃん――キス、して欲しいな……」
梨花のトロ甘な表情と姫華の色っぽい顔――二人の愛らしい表情に迫られ
――
「んぅ……♡」
二人同時に舌が入って来た。口の中を同時に、そして全く違う動き方で私
の口内を暴れまわる。
「んっ……んんっ……? んー……♡ んーっ!」
優しく絡め取るように動く舌、深く奥まで入って来る舌――もうどっちが
どっちだか解んない。――私はもう半分以上感覚が麻痺しはじめ、とろける
ような舌を感じ――口の中が優しくとろけてきた。
「ぷはっ……♡ はーっ……はーっ……♡」
私の口から二本のねっとりした糸が引き、その先には幸せそうな表情をし
た梨花と姫華の顔があった。
「裕海……♡」
「裕海ちゃん……♡」
二人に双方から抱きしめられ私は思った。――こんなにも深く愛されて、
私はなんて幸せ者なんだろう……と。
放課後もまた、梨花は先に帰ってしまった。また一人か――と校門を出る
と、愛くるしい笑顔を見せた姫華がこちらを向いた。
「姫華……待っててくれたの?」
姫華は私の横を歩き、
「午後は面接があったんだよ――少し近くのお店寄ってから戻ってきた」
ただ単に私と帰りたかったのか――それとも私が一人になるんじゃ無いか
と思って待っててくれたのか分からないけど――
「ありがと、姫華」
私は姫華の肩に身を寄せた。姫華の身体が少しゾクッと震えた。反応が可
愛いから、ちょっと甘えてみようかな……?
私は歩きながら、人差し指で姫華の肩から肘にかけてを「つぃー……」と
なぞってみた。
「何? 裕海ちゃん」
姫華がちょっとこっちを見た。私は笑顔でそのまま姫華の腕を抱きしめた。
「裕海ちゃん!?」
姫華動揺してる――でも大丈夫、女の子同士だったらこういう事してる子
とかたまにいるから。
「姫華……♡」
私はちょっと背伸びをして、姫華の耳元で甘い声を出した。
「今日のキス――気持ちよかったよ♡」
みるみる顔が赤くなっていく、この辺梨花と反応が違うんだよね。
「裕海……♡」
どういう反応するかな? 抱きしめられるかな、また好きって言われちゃ
うかな?
「もう我慢出来ないわ」
「ふぇ!?」
私は姫華をからかった事を少し後悔した。――梨花なら「えへへ、冗談」
で済むけど、姫華はいわゆる片思いであって――その相手が私。
想像してみよう。片思いしてる相手にキスしました――放課後に「良かっ
たよ」と言われました。思い人の恋人さんは今いません――この状況でどう
なるかと言うと……
「んんっ……!?」
通行人もいる歩道で盛大にキスされた。人に知られることを極端に嫌う梨
花、私の恋人さんはそういう人だった。――私は姫華を甘く見てた。まさか
往来の激しい駅前大通りの歩道で、しかも物陰とかでは無く普通に道を塞ぐ
ように――私の顔を両手で支え、唇同士を重ね合わせた。
「ん……ぷはっ……♡」
舌は入れられ無かった。姫華の柔らかい唇の感触が残り、ちょっとぽーっ
としてしまった。
「裕海……ちゃん」
姫華の嬉しそうな顔、顔を赤らめ涙を流しながら――同じ場所で抱きしめ
られた。少しだけ視線を感じる――私たち、どう思われているんだろう。
「好き、大好き……裕海ちゃんの事大好きだから……」




