第六十七章:可愛いは正義
次の日の朝、私が学校へ行こうとすると――
「おはよう裕海ちゃん」
姫華が見慣れない制服を着て家から出てきた。どこの制服だ? それ。
「ああ、これ? 今日裕海ちゃんの学校で受験するから、前の学校の制服で
来なさいって」
そのいかにも優等生が行ってそう――な制服が姫華の前の制服!?
「何か、綺麗だね……」
姫華はクルッとターンして、
「半年も着てないからね~……一年生の終わりに転校して入った学校だし」
あまり深く考えて無かったけど、姫華って実は超天才なんじゃ……
「でね……」
姫華は辺りを見渡してから小声で、
「学校までの道順忘れちゃったから、一緒に行かない?」
さっきの訂正。やっぱバカだわ。
姫華は普段と違って肩ほどの髪をポニテ風にしてまとめていた。真面目さ
んな梨花と違って茶髪だから、何か一緒に登校するっていうのは新鮮さを感
じさせる。
「姫華って髪――」
言いかけたところで、
「自毛だよ。染めてるわけじゃ無いの」
だとしたら凄く綺麗――
「茶髪でポニテは私あまり好きじゃ無いんだけどね……」
せっかく褒めようとしたのに。
駅から学校まで歩くことにしたけど――何か視線を感じる。やっぱ違う制
服の子って見ちゃうよね。
「裕海ちゃん、どうしたの?」
姫華は全く気にして無いらしい。――っていうか、受験するんだよね?
良いの? 登校中単語帳見つめるとかしなくて。
「姫華余裕だね~」
姫華はしれっと、
「前の学校で習ったところだから、多分大丈夫」
やっぱ姫華って頭が凄く良かったりするんだろうか……よく親御さんがこ
んな高校行くこと許したなぁ……
教室に着いて、私はドッと疲れが出た。――何故って? 姫華を職員室に
連れて行く間、ずっと男の子の視線を感じていたからだ。別に自意識過剰と
かじゃ無くて、姫華がクセなのか……唇の端っこを舐めるんだけど、そのた
びに男の子が振り返って……私じゃなく姫華の方に視線を感じたのだ。
「どうしたの?」
灯が私の頭を撫でた。――ありがとう、心配してくれて。
「返事が無い。ただの……んーと何だっけ?」
私は顔を上げ、
「何それ」
灯は頬に指を当て何か考えている様子で、
「銀士が前にボソッと言ってたんだけど……え~……何だっけ?」
灯が悩んでいる間にチャイムが鳴り、先生が入って来た。結局何なのか分
からないまま、灯は自分の席へ戻って行った。――後で姫華にでも聞いてみ
ようかな、変な事に詳しそうだし。
昼休み、私と梨花が空き教室へと向かっていると、職員室からペコリとお
じぎをして出て行く女の子が見えた。
「あら? あの人って……」
梨花はメガネを取り出し、じっと目を凝らしていたが、
「あ! 裕海ちゃ~ん」
誰なのかを確認する前に向こうからこっちに向かって走ってきた。――っ
て、職員室の前で走るとか!
「あら、宮咲さん」
梨花はかけたメガネを外し、姿勢を正した。
「本校に何のご用事で?」
姫華は梨花の前に立ち、
「来月からこの学校に転入させていただきます」
まだテストの結果出てないじゃん……
姫華は髪を指でいじりながら、
「大丈夫よ、転入試験前の学校の定期試験より簡単だったから」
梨花は頷き、
「確かにここの学校の転入試験は簡単だわ……問題見たことあるけど、普段
の試験問題をちょっと難しくした感じだし」
あのー……じゃあ私は赤点、落第ですか? ――くっ……これが優等生同
士の会話か。
姫華は私の方を向き、
「ねえ! 一緒にお昼ご飯食べない? 私もうお腹空いちゃって――」
梨花が身体で遮り、
「残念! 裕海と一緒にご飯を食べるのは私よ、あなたは一人でどっかで食
べてればいいわ」
さっきまでの和やかな空気はどこに行ったんだろう。
「裕海ちゃんは私と氷室さん――どっちと食べたい?」
「へ? 私っ――」
梨花が私の肩に手を置いた。
「もちろん私よね?」
怖い。来年からこれが毎日続くと思うと――うう、胃がキリキリしてきた。
「三人で一緒に食べない? ダメかなぁ……?」
こんな手使いたく無かったけど――私は二人を上目遣いでじっと見つめて
みた。
「え……ええ、裕海がそう言うなら」
「私は構わないわよ? 裕海ちゃんと一緒に食べられるならっ」
可愛いは正義! ……別に私可愛く無いけど。




