第六十六章:十二月十七日水曜日
次の日――水曜日と言う一週間で一番やる気の無い日を過ごしながら、私
は梨花に贈るクリスマスプレゼントの事を考えていた。――もう十二月十七
日。祝日の関係で、今年は冬休み開始が早く――今日含めてあと三日で今年
の学校生活は終了する。
「早いなぁ……」
「早くて良いじゃん、休み長いし」
私は思わず声が漏れたらしい。心の中で言ったと思った言葉に、灯が返事
をした。
「私が言ったのは――この二年間の話だよ」
灯は指の上でペンを回しながら、
「ああ! そうね……私も銀士と付き合ってから、いろいろあったわ……」
灯は遠い目をしたり、顔を赤らめたり「きゃー♡」とか言って頬を両手で
包んだり――この二ヶ月で色んな経験ができたみたいだった。
「裕海が氷室さんとそういう関係になったのも同じくらいだったよね?」
そういえばそっか……私が梨花と付き合いだしたのは、二ヶ月近く前だっ
たっけ。
灯は色っぽい声をだし、
「満足できましたか? この二ヶ月間で」
できたと言えばできたかな? 梨花とキスもしたし、一緒に寝たり――姫
華ともキスし――
「大丈夫? どうしたの」
嫌な事を思い出してしまった。
「うん、大丈夫」
昼休み、梨花はお弁当を食べ終わると真っ先に私の頬にキスをした。
「裕海? 早くしよっ」
私は急いでお弁当の中身を空にすると、梨花の方に顔を向けた。
「良いよ――今日はどっちからする?」
聞くと同時に梨花の方から私を押し倒してきた。優しくソフトタッチなキ
スを何度も続けられ――凄く心地良い。
「次、裕海の番」
梨花はゴロンと寝返りを打ち――両手を上に向け、
「裕海! おいでっ」
私は梨花に身体に覆いかぶさり、夢中でキスを続けた。――私がするのは
ソフトなキスじゃなく、もっと深い――舌入れるやつ。
「んっ……んんっ……♡ んー……♡」
前に何回かした糸引くやつ、やってみたい。
「ぷはぁっ……♡」
できたみたい。梨花のトロ~んとした顔、色っぽい唇から――愛らしい糸
が……
「裕海……本当それ好きね?」
梨花が息を荒げたまま、私の頬を撫でた。
「うん、何か気持ちよくなった感じがして好き」
梨花は頬を撫でながら、
「普通にキスしたら気持ちよく感じないの?」
梨花は私を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「私は裕海とキスするの、凄く幸せなんだけどなぁ~……」
耳の奥がゾクッとした。全身密着してるし、梨花の鼓動が自分の鼓動のよ
うに感じる。――まぁ……もちろん私自身も凄くドキドキしてるんだけど。
「梨花……♡」
私の言葉を遮るようにチャイムが鳴った。梨花は頬を撫で、
「ごめんね裕海ぃ……今日も急がないといけないの」
またか。何だろう、梨花が急いでる事って――梨花の事だから私に言えな
い理由はちゃんとあるんだろう。
「冬休み入るまでには……教えるから」
冬休みって――明後日終業式だよ? でも梨花が私を裏切ったり、嘘をつ
いた事は無い。――梨花は絶対私に教えてくれる。
「分かったわ、信じる」
私はもう一回だけ梨花と唇を交わし、お弁当を鞄にしまい空き教室から出
た。
いつも通りの帰り道、今日は途中で愛理ちゃんに会うことも無く、電車で
姫華に会うことも無く――
「お帰り、裕海ちゃんっ!」
姫華は自身の家の玄関の前を掃き掃除していた。――いつも思うんだけど
寒くないの?
「姫華っ! 勉強進んでる?」
姫華は目の横でブイサインをして――高さの話じゃ無く、ほら――横ピー
スってやつ!
「バッチリ~♡ 来年絶対裕海のクラス行くからね!」
クラスまで指定は出来ないでしょう。
「超優等生でも駄目?」
知らないけど、梨花の百倍くらい頭良ければ叶ったりしてね。
「私自信あるんだよね~、裕海のクラス順位一位! とか」
姫華は嬉しそうに顔を近づけた。もう少しで頬にキスしそ――
「ちゅっ……♡」
うん。凄く愛らしい音がしたけど、別にしようとしたんじゃ無くて! 姫
華がそんなに近づいて来るから――
「裕海……」
姫華の色っぽい表情、プラス唇をペロリと舐める癖。ああ……何であなた
はそう、魅力的なポーズを作るのが上手いんですか!
「今私の事ちょっと良いって思ったでしょ?」
鋭い。お主、何故分かった。
「裕海ちゃんは照れると目をちょっとそらして、チラチラと見るんだよね~」
それをするのは大抵の人間じゃ無いか……?
「でもちょっと嬉しかった。じゃねっ裕海ちゃん!」
姫華の笑顔に見送られ、私は隣の家に帰った。何かドッと疲れが出た気が
する……




