第六十四章:悟り
放課後も同じ空き教室に来た。梨花は優しく私を受け入れてくれて、今日
の放課後もたっぷり甘~いキスをした。
「ぷはっ……♡」
梨花は鞄を背負うと、
「ごめん、急がないといけないんだ」
梨花はそう言って教室から出て行った。少ししてから私は教室を出て、学
校の側の駅に向かった。
帰りに買ったエクレアもモフモフと食べながら歩いていると、男の子二人
と手を繋いで歩く――と言う普通に見ると自分が悲しくなるような、幸せそ
うな女の子が歩いているのが見えた。
私は残ったエクレアを飲み込み、指についたクリームを舐めた後――向か
って歩いてくるその三人組をなるべく気にしないようにすれ違おうとした。
が――
「あ! 裕海お姉さ~ん」
距離が近づくまで気づかなかったけど――もしかして。
「愛理……ちゃん?」
愛理ちゃんは両手を男の子に握られると言う――乙女ゲーの主人公でも裸
足で逃げ出す。――くらいの幸せムードを醸し出していた。
「この人が裕海さん?」
こっちは知ってる。前にメイド服姿の愛理ちゃんに可愛いって言った――
えーと、確か。
「そうだよ、妹尾君」
もう一人の――いかにもモテそうって雰囲気な男の子は、
「初めまして! 僕は『あいりん』の彼氏を務めさせていただいております
鳴瀬成美、鳴瀬成美と――」
選挙活動か!
「鳴瀬君! 違うよ、彼氏さんじゃ無いでしょ」
愛理ちゃんは「めっ!」と鳴瀬とか言うリア充中坊の額を叩いた。
「……………」
それを妹尾君が微妙な目つきでチラリと見る。うん、分かるよ? その気
持ち……
「妹尾君も怒っちゃダメ」
フッと振り返り、愛理ちゃんは妹尾君の耳に甘噛みを食らわせた。……表
現がまずいかな? でも、妹尾君は甘噛みされたせいで顔を真っ赤にして耳
を撫でている。
「あいりん! 俺にもしてくれよ……」
リア――鳴瀬君が愛理ちゃんの顔を自分の方に寄せた。――とりあえず、
その鳥肌がたちそうな呼び方やめような?
「もー! 妹尾君の前でその呼び方やめて?」
もうやめて! 妹尾君の精神ライフはもう、ゼロよ!
――ってか、前ではやめてって何よ。妹尾君がいなければ良いっての?
私はちょっと想像してみた。
「ゆーみん……♡」
梨花に言われる事を想像すると――少し嬉しいかもだけど、
「私なら拒否するな……」
「何をですか?」
両側から抱きしめられ、清らかな笑顔を見せた愛理ちゃんと目が合った。
「ごめん、急いでるんだ」
私はさっき聞いたような言い訳をして、三人組と別れた。――帰ったら精
神的にヤバいかも……
私はベッドのドサりと倒れこみ、昨日姫華に買ってもらった百合漫画を読
んでみた。ふむ……梨花の家で見たのと内容が全く同じだ。――当たり前だ
けど。
しばらく読みすすめて、私は思った事がある。
「世の中こんなうまくいかない……!」
高二の冬。私は人生を悟りかけた。