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第六十三章:梨花の優しさ

 次の日私が学校に行くと、灯の雰囲気が少し違う気がした。

「灯ーっ!」

 灯は私の顔を見ると(ほお)(ゆる)め、顔を赤らめながら私をトイレへと引っ張っ

て行った。

「どうしたの?」

 灯はさっきから顔を赤らめ、人差し指で唇の端っこを引っ()いたり――左

胸を触ったりしている。

銀士(ぎんじ)とさ……♡」

 灯は私の耳元で、

「一緒に寝てみた」

 ? それは私も梨花とするけど――何か(すご)いことなのかな?

 灯は私の反応が(うす)いせいか、

「裕海……もしかしてあなた、私はとっくに氷室さんと一緒に寝たりお風呂

入ったりしてるけどなー……なんて事考えてるんじゃ無いでしょうね」

 大当たりです。

 灯は大きな溜息(ためいき)をつき、

「良い? 銀士は男、私は女。愛し合った二人が一緒に寝たとしたら?」

「……?」

 灯は話の内容を理解できない私にしびれを切らし、英語三つを小声で(ささや)

た。

「な……な、なななな……」

 私はやっと理解したけど――ええ!? 灯が、文田(ふみた)君と?

「まあ……途中でその、銀士が(つか)れちゃって……」

 灯は言葉を(にご)した。最後まではできなかったんだ……

「この説明だけで私のテンション下がったわ」

「ごめん……」

 灯はもう一度溜息をつき、

「裕海は? 氷室さんと何か進展した?」

「私は――」

 それよりまず。恋愛経験の豊富そうな灯に聞いてみようと思う。

「灯ってさ、浮気ってしたこと……ある?」

「は? 私まだ独身だよ?」

 そうでは無くてね。

「ん~……中三の時付き合ってた彼にされた事ならあるよ」

「それで……!」

 灯は昔話をするお(ばあ)さんのように、

「別れたわ――最初から受験勉強のストレスを紛らわすために付き合ってた

ようなものだったし」

 そっか……

「まさか裕海……! 氷室さんに浮気されたの?」

「違っ……! そうじゃ無くてね――」

 私は姫華の優しさにクラっと来て、その場の雰囲気でキスしてしまった事

を話した。――姫華に言われた事も含めて。

 灯は(だま)って(うなず)いていたが、また大きな溜息をつき、

「はぁ~……その姫華ちゃんって子、いい子だね……」

 姫華が?

「だって……そのまま自分の物に出来たわけじゃん? なのに、自分を変人(へんじん)

に見せてでも――裕海を浮気人にさせないようにしてる」

 姫華は別に変な人を演じているんじゃ無いと思うけど……

「そういえば姫華ちゃんって誰? どんな人?」

「あのメイド服の人」

 灯は「あー……」と妙な顔をして、

「じゃあ、そこまでまともな事考えたか解んないや」

「もー……灯ったら」

 灯と笑い合っていると、トイレのドアが開き――

「あら、こんなところにいた」

 梨花が嬉しそうに私に近寄り――

「ギュッ……♡」

 愛の込もった抱擁(ほうよう)

「裕海がいなくて心配したんだよ……?」

 梨花は心配しているような表情をして、私の頬に軽くキスをしてトイレか

ら出て行った。

 灯は私を突っつき、

「あんないい()、裏切っちゃ駄目だよっ!」

 私は灯を突っつき返し、

「灯もね?」

 チャイムが鳴り、私と灯は急いで教室に戻った。



 昼休み、いつも通り空き教室で梨花とお弁当を食べていたが、何となく罪

悪感を感じてお(はし)が進まなかった。

「裕海……ゆーみ!」

 ハッと我に帰ると、梨花が心配そうに私の顔を(のぞ)き込んでいた。

「どうしたの、裕海? 今日何か変だよ?」

 まさか浮気まがいの事をしました。なんて言うわけにもいかず――

「ちょっと調子悪いかも……」

 梨花は心配そうに、

膝枕(ひざまくら)しよっか?」

 などと言ってくれる。……はぁ、何であんなことしたんだろう。

「ありがとう……」

 私は梨花の膝の上に転がった。――幸せ。梨花のすぐ側にいられるのはこ

んなにも幸せな事なのに――

「裕海? どうして泣いてるの?」

 まただ……勝手に(なみだ)がこぼれてくる。こんなに優しくて――私の事を一番

に考えてくれる最愛(さいあい)の恋人さんを――私は、私は……

「梨花……ごめん、ごめんなさい……」

 ボロボロあふれる涙と、止まらない謝罪の言葉。そんな私の頭の上に梨花

は手を乗せ、

「大丈夫、泣かないの……私はいつだって裕海の味方だって言ったでしょ?」

 顔をあげると、教会に(かざ)ってある絵のような――心安らぐ優しい顔で私を

見つめていた。

「梨花……」

 私は起き上がろうとしたけど、梨花の手によって止められた。

「疲れてるみたいだから……キスはまた放課後ね?」

 梨花の優しさに、私はもう一度涙をあふれさせた。

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