第六十二章:姫華との夜
夜中に目が覚めた。やっぱ夕方と言う変な時間に寝たのは良く無かったら
しい。今から寝る気にもならないし、だからと言って今から朝まで起きてい
るのも何か嫌だ。
「はぁ……こんな時に姫華が来てくれたら……」
って――ちょっと待て、何で姫華だ。私の恋人さんは梨花でしょ!
「お呼びですか?」
ドアがガチャリと開き、メイド服姿の姫華が嬉しそうに立っていた。……
そうだった。鍵返してもらうのすっかり忘れてた。
「裕海ちゃんから私を求めてくれるなんて……♡」
姫華はベッドに乗ると、寝転がったままの私の身体にまたがった。少しず
つ、足下から上まで寄ってきて――
「あん……♡」
腰の辺りまで来たところで姫華が変な声を出した。姫華は顔を赤らめ、顔
を近づけると――
「ペロン……♡」
私の目の前で自身の唇を舐めた。――もう私限界なんだけど……
「裕海ちゃんは、私と何がしたい? キス? それとも――」
姫華はメイド服の裾をめくり、
「もっと激しい方かなぁ~♡」
姫華の行動、一つ一つにドキドキする。――あれ? 私って、姫華の事好
きなんだっけ?
姫華の顔がゆっくりと近づき、私の鼓動は最高に高鳴った。
「いっただきま~す……♡」
姫華が薄く口を開き、
「はむぅっ……♡」
私の唇を捕えた。はむはむと唇を動かし、私の唇を挟んでいる。――ヤバ
い、超良い……♡
「裕海ちゃんも舌入れてみたら? 気持ちいいよ?」
分かってる。でも……ここで舌を入れちゃって、梨花より姫華を愛おしく
思ってしまったら――と思うと、
「怖くて出来ないよぉ……」
姫華はニコッと笑い、私の額に手を当て、
「じゃあ、私が入れてあげるから……入れたくなったら入れてね?」
姫華のねっとりした舌が侵入してきた。舌先が私の口内をくすぐり――マ
ジでヤバい。――梨花のがとろけるような甘~いキスとすると、姫華のは独
特でクセになるって言うか――って、何キスの分析なんかしてるんだ私は。
「んっ……♡ んー……」
姫華に肩を掴まれ、舌がもっと奥まで入って来た。――これは、私にも入
れて欲しいって事なのかな……?
私は少し躊躇ったが――
「んっ……♡」
姫華の温かい口内に、自分の舌を入れ――かき混ぜた。
「んー……♡ ぷはぁっ……」
姫華にすぐに口を離された。もっとしてたかったのに……
「裕海ちゃん」
姫華は真剣な表情で、
「それは氷室さんにしてあげなさい。私は裕海ちゃんに舌を入れてもらうだ
けで良かったわ」
「梨花に……?」
姫華は立ち上がり、
「一人に激デレな娘を落とすのは燃えるけど――」
姫華は私を見下ろし、
「誰でも良いからキスしたいだけの娘を落としても寝取っても、楽しくもな
んとも無いわ」
姫華はハッとした表情で、
「べ、別に裕海ちゃんが嫌いなわけじゃ無いのよ! あと、そっちからキス
して来たんだろーっ! って思うかもしれないけど、それは単に萌え要素で
あって? 一途な女の子がちょっとだけこっちを見てくれるって言う、焦ら
され具合がまた……」
姫華はドアの方を向き、
「だから……氷室さんの事は大切にしなさい。何かあったら、私が慰めてあ
げるんだから!」
姫華は静かに部屋から出て行った。
――姫華、急にどうしちゃったんだろう。
宮咲姫華は自室のベッドにメイド服のまま倒れ込んだ。
「裕海ちゃん、どうしたんだろう。前まであんなに氷室さんの事、一途に愛
してたのに……」
彼女はその疑問と同時にちょっとした後悔を感じた。
「何であんな事言っちゃったんだろう……裕海ちゃんと愛を深めるチャンス
だったのにな……」
シーツに人差し指を突き立ててクリクリとしながら、
「私……裕海ちゃんが幸せなら自分も嬉しい――って思ってるのかも……」
宮咲姫華は、ベッドに倒れ込んだまま、今日本屋で買った――恋愛物の漫
画を一冊手にとって読んだ。
「口説かれて浮気しちゃう娘が主人公のお話かぁ……」
彼女は口の中を舐めた。
「……全然甘くない」




