第六章:図書室
「じゃ、私行くね」
灯は鼻歌を歌いながら部活へ行った。いいなぁ……好きな人と毎日楽しく過ごせて――。
「まーきなさんっ!」
後ろから突然抱きつかれた。え? 誰?
「氷室さん……」
「もう教室誰もいないし――思わず抱きしめちゃった」
ここの所、私の前ではこの表情で接してくれている。普段からそうしてれば良いのに。
「今日もあの教室行くの?」
「私はここで良いかも、蒔菜さんはどうしたい?」
抱きしめられたまま話すっていうのも――何か嬉しいような照れくさいような、何とも言えない気分だけど。でも悪い気はしないかも。
「私は~――氷室さんと一緒ならどこでも良いよ」
「んぇ!?」
氷室さんの口から変な声が出た。あれ……私何か変な事言った?
「え……ええ、それじゃあ――」
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私と氷室さんは図書室に来た。利用者は少ないけど、割と広くて立派な図書室なんだ。
「ここが良いの?」
「うん……私ここ、落ち着くんだ」
氷室さんは本棚の本をなぞりながら奥まで歩いて行った。
「蒔菜さんは……その、閉所恐怖症とか無いよね?」
「私? 別に大丈夫だけど……何で?」
氷室さんは私の手を握り、どんどん奥へ連れて行った。何でここの図書室ってこんな迷路みたいなんだろ。
「蒔菜さん……!」
「きゃっ!」
氷室さんに力強く引き寄せられ、身体が密着した。温かく――お互いに心臓がドキドキしていた。
「蒔菜さん……いえ――裕海、ここで……しよ?」
何を――なんて聞くのは野暮だよね、分かってるよ
「良いよ――梨花……」
二人の唇が重なり、身体の密着度が増えた。舌は入れなかったけど、お互いに腕を回し――全身を押し付け合いながら抱きしめ合った。
「んっ……裕海、裕海ぃ……」
「んんっ……梨花ぁ……」
夕日の差し込む図書室の奥で――私と梨花はずっとずっと……くっつき合っていた……。
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「あれ? 裕海、待っててくれたの?」
教室に戻ると、帰り支度中の灯とばったり会った。私はまだポワ~ンとしていて、言葉にならないセリフを呟いた。
「何~その緩みきった顔~……何か良いことでもあった?」
「ん~別にぃ~」
思わず唇を舐めてしまう、えへへ……梨花の味がする……。
「私もね~良いこと、あったんだ~……じゃん!」
灯は映画館のチケットを見せた。
「今週末、文田君を誘うことに成功しました~!」
「え~! 凄い。良かったじゃん!」
「もうね~! 可愛かったんだよぉ~……ちょっとツンデレっぽく? 『一緒に行かない?』ってチケット見せたらもう――きゃ~!」
こんなに嬉しそうな灯は久しぶりに見た。しかし――映画か……梨花……もし私が誘ったら来てくれるかな……? ――っていうか、何で私梨花の事――ここで誘うとしたら倉橋君でしょ! どうした私!