第五十九章:恋人同士二人きり2
もしかして梨花の手作り!? なんて展開があるはずも無く、私たちはファ
ーストフードを黙々とリビングで食べていた。
「ごめんね、裕海ぃ……私がお料理得意だったら……」
梨花はシュンとしていたが、この状況でもし梨花の手料理なんて食べたら、
私は身体のいたるところから鼻血が出ちゃいますよ?
「でも将来は、私が裕海ちゃんの手料理を毎日食べるんだぁ……♡」
それは……つまりその、そういう意味ですか?
「裕海がお家の事やって……私が働きに出て――」
「あのっ! 梨花?」
梨花の周りにポワポワと何かが浮かんでいるように見えた。……そりゃ、
私だってそういう事考えたことありますけど?
「毎日甘~い夜を過ごそうね♡」
限界です。
「きゃあっ! 裕海ちゃん、鼻血鼻血!」
拭わなくて結構です。激甘で幸せな鼻血ですから……
梨花の家のお風呂場は綺麗でうちのより少し広かった。自分の家とは違う
匂いがするし、このシャンプー……
スン……♡
「梨花の匂いがする……♡」
私は自分がしている事に気がつき、慌ててシャンプーのボトルを元の場所
に戻した。
「お待たせ~」
バスタオルを巻いた梨花がお風呂場に入って来た。遅いよ、梨花ぁ……
「てか、自分だけバスタオル巻くとか――」
「あ、そうか――」
梨花はバサリとバスタオルをはぎとった。……その仕草、何かヤバい……
「裕海? 今日はどこまでする?」
梨花が四つん這いになって迫ってきた。ゆっくりと、顔が近づいて来て―
―私の胸の横あたりに手を着いて、脚を絡めてきた。姫華みたいにペロリと
唇の端を舐め――左手でセミロングな黒髪を指に絡めて見せた。
「とりあえずキスからで……♡」
梨花は髪をいじるのをやめ、スっと顔を近づけた。
「んっ……んんっ……♡」
お風呂場で何も身につけずに梨花とキス。いつ以来だろう……初めて私の
家に泊まりに来た時だったっけ……?
「んっ……んっ……んんんっ……!」
梨花の腰が砕けたらしい。梨花は私の上にドサリと倒れこみ、幸せそうな
表情で私を見た。
「腰……砕けちゃった……♡」
私の上で気持ちよさそうに、トロ~んとした表情をした。
「出ようか?」
私は梨花の身体を支えようとしたが、梨花はその腕を掴み、
「もう少し……このままでいたい……」
私は梨花の身体を抱きしめ、しばらくの間そうしていた。
「ね、早く早くぅ……!」
梨花は、待ちきれない! と言った様子でカバー付き漫画を片手に、私を
ベッド上に手招きした。
「待ってね……じゃあこれでっ!」
梨花の百合漫画を一冊手に取り、私たちはベッドに転がりながら一緒に読
み始めた。漫画に出てきた気持ちよさそうなキスとかを試してみたい! っ
て。梨花はずっとやってみたかったらしい。
「これとかどう?」
梨花が選んだのは――
「りっ! 梨花!?」
息を荒げながら、お互いに舌を出して舌だけで舐め回す――と言う、口周
りが大変な事になりそうなシーンだった。
「これ……凄く幸せそう……♡」
うっとりと眺めている梨花には悪いけど。うん、多分終わった後大変な事
になるだろうね。
「裕海は何かしたいのある?」
梨花の興味津々な表情。私は――
「こ……れ?」
二人で飴玉を口の中で転がし合ってるシーン。って言うか、他に健全かつ
やってみたいシーンなんて、私が手に取った漫画には一コマも無かった。
「飴玉転がしか~、何かいいね――裕海らしい」
私らしいって何だよぉ……ちょっと恥ずかしくなったけど、梨花は机の上
に置いてある、宝箱の形をした綺麗な小物入れからカラフルな小さな飴玉が
入った袋を出してきた。
「何味がいい?」
「梨花味……」
梨花の手から袋が落ちた。いや、自分でもかなり恥ずかしい事言ったな、
とは思いますよ? でも……
「裕海ぃ……」
梨花は顔を赤らめ、人差し指同士を突っ付き合いながら、
「それじゃ……飴玉いらないじゃ無い……」
その反応は予想出来なかった。ヤバい、顔沸騰しそう。
「裕海は『梨花味』ね? じゃあ私は――」
顔を真っ赤にしてこっちを見た。うん、大体見当はついたよ?
「ゆっ……ゆゆゆ、裕海味でっ……!」
言った途端梨花は枕に顔をうずめ、足をバタバタさせた。分かるよ、その
気持ち。
「じゃあ……行くよ?」
「大丈夫よ、梨花」
お互いにすぅっと息を吸い込み、
「んっ……んんっ……♡ んー……♡」
唇はしっかり塞ぎ合い、私は梨花のを、梨花は私の口内を舐め回して――
たっぷり愛を注ぎ込んだ。
「んーっ……んんっ……♡」
口内は梨花味へと変化して行った。――梨花の口の中も私色に染まってい
るのかな……?
「んっ……♡ ぷはぁっ……♡」
愛らしい糸を引きながら、梨花の唇が私から離れた。甘~い味が口の中で
ホワ~んと広がる。
「裕海……? ちゃんと味わった?」
トロ~んとした顔で嬉しそうに聞いてきた。私は梨花の甘~い味でいっぱ
いな口内を舐め、
「甘い……♡ 梨花、凄く甘いよ?」
梨花も口の中で舌を動かし、
「私も……♡ 裕海の味がする……♡」
口内はねっとりしたけど――まだ、し足りない。梨花と抱きしめ合い、も
う一度深く愛の込もったキスをした。




