第五十八章:恋人同士二人きり
「あ、昨日はありがとうございます!」
普段通り家の前の掃き掃除をしている小さなメイドさんは、可愛らしい笑
顔を見せにっこりと微笑んだ。
「結局どうなったの?」
実際言うと、今の今まで忘れていたんだけど――思い出したら気になっちゃ
うものだよね、やっぱ。
愛理ちゃんは顔を赤らめ、
「うん……今は一応妹尾君と付き合ってるんだけど、鳴瀬君も教室とかで二
人きりになると……結構積極的なんですよね……」
私はかける言葉も見つからず、顔は笑顔で。心の中で、もう使い古された
フレーズを叫んだ。
……リア充爆発しろぉ!
愛理ちゃんとは別れ、南町行きの電車に揺られながらさっき私が心の中で
叫んだフレーズを思い返すと、ああ――私自身も爆発しちゃうのかなぁ……
なんてくだらない事が頭に浮かんだ。事実私が思ったのは、中学時代の私で
あって――別に今の私が愛理ちゃんに嫉妬してるわけじゃ無いし。
電車が目的の駅に着き、私はお菓子を数個買ってから梨花の家方面行きの
バスを探し、十分間バスに揺られた。
「梨花、来たよ」
玄関に入ると嬉しそうに抱きしめられた。この行動から察するに、もしか
して?
「今日親、いないんだ♡」
梨花の顔が目の前に近づき、
「だから、今晩はずっと一緒だよ?」
可愛らしい梨花のウィンク。ヤバい、もうこの時点でテンションMAXだわ。
梨花の部屋に向き合って座ってみたけど……ダメだ。何していいんだか全
然解らない。普段私の家だったら普通に話しだすんだけど、もう梨花の家に
二人っきりで泊まれるとか考えただけでドキドキして他の事が考えられない。
「ねぇ、裕海?」
梨花が身を乗り出し、顔が近づいた。
「まず……キスしよう?」
「んっ……ぷはぁ……♡」
舌を絡め合う濃厚なキスをたっぷり楽しんだ後、何となくさっきまでの不
安感みたいな物が無くなった気がする。――って言うか、途中からもう梨花
の舌を味わうのに必死で、逆に落ち着けた。キスすると落ち着くなんて何か
変な感じだけど……やっぱ大好きな人と唇が触れ合う感覚って言うのは、心
の底から安心できる。
「梨花の舌……甘い……♡」
「もぅ……バカ……♡」
結局あの後も、唇をくっつけたり離したり――またくっつけたりの繰り返
しだった。そのまま私たちはベッドに転がりキスを続けようとしたのだけど
……
ヤバい、梨花のベッド……当たり前だけど梨花の匂いがして――いい匂い、
キスに集中出来ないよー。
「どうしたの、裕海?」
梨花の紅潮した顔に覗き込まれ、私の鼓動はドキドキを通り越してもう、
バクバクで――梨花の顔もまともに見れない……
「梨花……」
私は梨花の身体に足をかけ、もっと近づいた。梨花はそれに応じ、片手で
私の頬を撫でた。
「裕海……大好き! 愛してるっ……!」
梨花の顔がぐいと近づき、そのままもう一度キス。今度はベッドに身体を
預けてるし――永遠にキスを続けることだって出来る。
「んっ……♡ んんっ……んん~……♡」
唇をくっつけたまま、お互いの口内では二人の舌が大暴れしていた。結構
愛らしい音もしちゃってるし……ちょっと恥ずかしい。でも、梨花とのキス
の心地よさは――恥ずかしさを超える。もっとしたい。
「んんっ……ぷはぁっ……!」
梨花が唇を離した。
「もっとしたかったなぁ……」
なんて言いながらシーツを人差し指でグリグリしていると、
「ぐぅぅぅぅぅ……♡」
梨花の真っ平らなお腹から可愛らしい音がした。梨花は顔を真っ赤にして、
「もう夜だよ……まずご飯食べよう?」
そういえば私も……
「くぅぅぅぅ……♡」
私のお腹からも鳴った。よし、ご飯食べよう!