第五十七章:ドライヤー
そういえば今日は金曜日か。
愛理ちゃんに相談を受けた次の日、私は制服を着ながらそんな事を考え
ていた。テストが三日あったからか、何となく曜日感覚がおかしい。
再来週はもう冬休みだし、クリスマスやら何やらこれからイベントが続
くなぁ……!
「裕海! いつまで着替えてんの、遅刻するわよ!」
私の甘い妄想をぶち破られ、私は現実に引き戻された。
「裕海、おはよう!」
灯が嬉しそうに私のそばまで来た。何か良い事でもあったのかな?
「あのね、裕海ぃ……♡」
灯は急に小声になり、私の耳元で、
「銀士の家、割と緩くてさぁ……クリスマスイブの夜、私の家に泊まりに
来れるって……♡」
マジか。
「良かったじゃん! 灯ぃ――」
「しっ……! 声大きいよぉ」
思わず飛び上がった私を見て灯は照れながら、
「裕海は? やっぱ氷室さんと一緒に甘い時間を過ごすの?」
多分そうなるのかなぁ……?
「まあ氷室さんと裕海なら、何も問題は起きないでしょ」
「それどう言う意味よ~」
チャイムが鳴り、担任教師が入って来た。今日一日乗り越えれば週末は
梨花の家での甘~いお泊り、来週はもう会議やら何やらで帰りが早い日は
多いし。最高ね!
昼休み、私はいつも通り梨花と空き教室でお昼ご飯を食べていた。黙々(もくもく)
と食べながらも、二人の頭の中には一つの事しか浮かんでいなかった。
――今日、初めて梨花の部屋でお泊りをする。
「裕海? ゆーみ!」
ハッと我に帰ると、目の前に少し怒ったような顔の梨花が、
「舞い上がっちゃうのも分かるし、私としては嬉しいけど――お茶飲む時
くらいは集中して飲みなさい! こぼれてるわよ」
私は無意識のうちにペットボトルを口の前で傾けていたらしく、見ると
スカートがびしょ濡れになっていた。ど、どうしよう……!
「ドライヤー持ってるわ。応急処置にしかならないけど、とりあえず乾か
してあげる」
梨花はドライヤーを取り出し、コンセントを刺してこっちを見た。
「何してんの、早く脱いで!」
えええ!? ここ学校ですよ? 流石にそれはまずいって言うか……
「もう! 仕方無いわね……」
言いながら梨花は自分のスカートを乾かし始めた。あ、なるほど――そ
ういう事か。
「梨花!」
「何よ?」
「舞い上がりすぎ。ここ学校で、乾かすのは私のスカート」
梨花は自分の行動を確認すると、途端に顔を真っ赤にし、
「裕海ったら……早く言ってよぉ……」
スカートを乾かしてもらいながら、私は思った。梨花がそんなになっちゃ
うくらい舞い上がってるなんて……♡
私は午後の授業が早く終わらないかな――なんて事を始まる前から考えて
いた。
「ちゅっ……♡ じゃあ、一回家帰ったら行くね?」
「うん、迎えに行けなくて本当ごめんね?」
放課後、誰もいなくなった教室で軽くキスを交わし、私たちは学校を出た。
私は梨花の家までの道のりを頭の中で復唱しながら、碧町行きの電車に乗り
――まず自分の家に向かった。




