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第五十六章:愛理からの相談事

 次の日も何かが起こるでも無く普通にすぎた。普通に登校し、授業を受

け――灯と文田君の話をして、梨花とキスをして別々に帰り――私は駅か

ら家まで歩いている途中だった。――何も無いのも平和で良いけど……こ

う、何か事件ですよーってのが無いと、学校生活にハリが無いわよね――

「あのっ……裕海お姉さん!」

 後ろから声がした。この呼び方は……

「愛理ちゃん」

 宮咲姫華(みやさきひめか)実妹(じつまい)宮咲愛理(みやさきあいり)ちゃんは、丁寧にペコリと頭を下げた。本当

に姫華と血が(つな)がっているのか、私はたまに疑わしくなる。

「あの……今お時間良いですか?」

 中学の制服だろうか。たまに駅で見かける制服にピンク色のマフラーを

巻いて、寒そうにちょこちょこと動いていた。

「良いけど、何かあったの?」

 愛理ちゃんはソワソワしながら辺りを見渡して、

「ちょっと相談したいことがあるんです」



 私は愛理ちゃんを連れ、近くの喫茶店(きっさてん)に入った。――中学生だけど……

何も言われなかったし別に大丈夫だよね?

「それで……話って?」

 愛理ちゃんは温かいココアを口に(ふく)み、幸せそうに息を吐いた。

「ええ、その……裕海さんって、男の子と付き合った事ってありますか?」

 いきなりだな、おい。

「ええっと……まあ? 中学時代に何回か?」

 (うそ)おっしゃいあたし! あんた付き合った事以前に男の子に告られた事

だって無いでしょうが!

「その……割と仲のいい男の子がいるんですけど……」

 私は一人の男の子の顔が浮かんだ。……妹尾(せのお)君かな?

「その子と遊んで――その帰り道で、別の男の子にこれ……渡されたんで

す」

 愛理ちゃんはそっと手紙のような物をテーブルに置いた。……まさかこ

れが、伝説の――

「ラブレターみたいなんです……」

 愛理ちゃんは少し顔を赤らめ、困ったような顔をした。

 ――私なんて生まれてこのかた一度も(もら)った事無いのに! ベタなギャ

グだけど(やぶ)り捨ててやろうかしら。

「読んでいいの?」

 愛理ちゃんは静かに(うなず)いた。

『宮咲愛理さんへ 僕は同じクラスの鳴瀬成美(なるせしげみ)です。突然ごめんなさい、

僕はあなたが好きです。世界の誰よりも愛しています。付き合ってくださ

い、返事待ってます』

 ああ、これはその場のノリで書いて後で枕抱(まくらかか)えて(もだ)えるようなあれか、

誰か昔の人も言ってた。恋文(ラブレター)は一晩置いてからポストに投函(とうかん)しろ。って―

―まあ今回は手渡しらしいけど。

「鳴瀬君って、結構人気あって――私の友達にも鳴瀬君の事好きって子、

いるんです」

 ははぁ、うちのクラスで言うところの倉橋(くらはし)君ポジションか。振った相手

にも普通に話しかけてくる、ちょっと無神経っぽいところもあるけど……

「イケメンだから許す」

「誰がですか?」

 思わず最後だけ口に出てしまったらしい、私はコホンと咳払いをし、

「それで、私に何が聞きたいのかな?」

 愛理ちゃんはクピクピとココアを飲み、

「妹尾君に知られたらどうしようって……」

 前にメイド姿の愛理ちゃんを見て、可愛いって言ってたあの子か。

「妹尾君は妹尾君で、可愛いんですよね――純粋(じゅんすい)で」

 愛理ちゃんは顔を赤らめた。何があったかは聞かないようにしよう、中

学時代ロマンスの欠片(かけら)も無かった自分の思い出を(うら)まないように。

「でも何で私?」

「裕海お姉さん、何かモテそうな雰囲気出してるんで――そういう経験豊

富そうだなぁ……って」

 悪意の無い純粋な顔。私の精神ゲージはもうゼロ行きそう。

「とりあえず……私ができることは無さそう、ごめんなさいね」

 私は二人分の代金を払い、ヨロヨロと店を出た。

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