第五十三章:梨花の家に
「はぁ……すっかり遅くなっちゃったな……」
碧町駅から家までの道のりは、高まった気分を冷ますのには丁度良かっ
た。吐く息は白く……もう冬だなぁ――と実感させる。
そういえば……もう一ヶ月もしないうちにクリスマスだ。――梨花には
何を贈ろうかな……
私は空を見上げた。満天の星が綺麗に光り輝いていた。空気が澄んでい
るから、よく見えるんだよね――だから私は冬が好き、冬生まれの人って
そういう人多かったりするのかな……?
家に帰ると珍しく母がいた。遅かった事には何も触れられず、缶ビール
の空き缶を積み上げて遊んでいたので、多分半分以上酔っ払っているんだ
ろう。
私は冷蔵庫に入っていた惣菜と炊飯器の中で保温されたご飯を茶碗に盛
り、急いで食べた。――あまり遅くに食べるとお腹が……ね! え? 急
いで食べるのも良く無いって?
次の日の朝、私は一応苦手科目の見直しをしてから学校に行った。――
昨日よりも段違いに寒くなっており、私はマフラーを巻いて登校した。も
っと寒くなったら、靴下も長いの履こうかな……
「おはよう、灯」
灯は余裕そうに椅子に寄りかかっていたが、私の声にハッとした様子で
姿勢を戻した。
「ごめん……ちょっとボーッとしてた……」
……まさかとは思うけど、三日間ずっと一夜漬けなんて事はして無いよ
……ね?
昨日の勉強のおかげで、なんとか普段通りには出来た。――普段通りな
わけで、まあ……赤点回避できればそれで良いかな?
テスト終了の瞬間、教室中から「あー……」とか「終わったー」とかの
達成感ある声や、やり遂げたーって感じの溜息が聞こえてきた。――そう
言う私も終わった瞬間伸びをして、溜息をついた。
「灯ー……」
灯は机に突っ伏して動かなかった。……多分電池切れだろうな……
今日は梨花の家に行って、とある漫画を一緒に読む約束だったので、私
は梨花に一本メールを入れ一足先に帰った。――お弁当持って来るの忘れ
たから、何か買って行かなくちゃ……
私は購買でパンでも買おうとしたが、混み具合が異常だったので私は仕
方なく駅まで我慢することにした。
駅でサンドイッチとおにぎりとお菓子を買い、前者二つを駅のホームで
食べ、お菓子は梨花の家に持って行くことにした。
ホームで立ち食いをしていたら電車が来てしまい、私は慌ててお茶で流
し込み――到着した電車に乗り、南町へと向かった。
南町で電車を降りた時に、私はようやく事の矛盾に気がついた。普段は
私の家に梨花が来るから、先に学校を出ても問題無かったのだけど――今
日は梨花の家に行くんだから、梨花がいなくちゃ話にならない……
しまった……ちょっと舞い上がりすぎた。




