第五十二章:梨花の部屋
「ヤバいわ……」
「ヤバいわね……」
さっきの究極の快感を感じてから、もう五分以上が経った。――だが、
私は大変な事になってしまい……動くことが出来なかった。
「どうしよう……」
「ごめんなさい、私もはしゃぎすぎたわ……」
そう――私は、明日のテストの勉強したところが……さっきので頭から
全部吹き飛んでしまったのだ。
「明日って何のテストだっけ……?」
「今すぐは思い出せないけど……科学はあったわ」
何で!? 私科学に嫌われてるの? 授業はやってくれないし、苦手だ
し――今回のテストの一番の赤点教科だったから、凄く勉強したのに……
「本当にごめんなさい」
「いや……別に仕方無いけどさぁ……」
梨花は顔を赤らめ、
「嫌じゃ無かったらなんだけど……今日、私の家で勉強しない?」
梨花の家? 嫌なわけ無いじゃん! 私は真剣な表情で、
「行かせていただきます!」
多分言った後、軽く頬が緩んだと思う。
私は一旦家に帰り、勉強道具などを持って駅まで行き電車に乗った。駅
で梨花が待っていてくれるらしいから、私は道に迷うこと無く梨花の家に
行くことができる。
私は南町に着き改札を出ると、制服姿の梨花が佇んでいるのを見つけた。
「梨花っ!」
危ない……いつものノリで抱きつくところだった。――私は踏み出した
ところで足を止め、肩をポンと叩いた。
「こっちよ――行きましょうか」
梨花は冷徹な表情で、駅前に停まっていたバスに乗った。
「遠いの?」
「バスなら十分よ、歩くと……三十分くらいかしら?」
そんなこんなで世間話などをしているうちに着いたらしく、梨花はボタ
ンを押し、私に降りるよう促した。
「ここよ」
梨花の家は普通の一戸建て住宅だったが――私ん家と違って駐車場に屋
根はあるし、庭も手入れされていて広い。
「あがって……今日は家族誰もいないの」
梨花の冷徹な表情は玄関に入り、ドアを閉めるまで続いた。
「はぁ……疲れたわ」
梨花の表情が元に戻った。何でこんなに警戒してるんだろう……
「私の部屋二階だから――早速科学から勉強しましょう、少しでもやれば
徐々に思い出せるわよ」
大丈夫、多分そうだろう――別に記憶喪失になったわけじゃ無いんだか
ら。
階段を登り、梨花に連れられて部屋に入った。――へぇ~……これが梨
花のお部屋かぁ……
しっかりと整理された棚、ゴミ一つ落ちていない綺麗な絨毯(しかも絨
毯の毛が綺麗に揃っていた)、小説や参考書の並んだ本棚――の下に鍵が
かかった中身の見えない戸棚があるから、ひょっとしてここが――
「テスト終わったら読んでいいわよ、でも今は駄目――読んだら多分……
集中出来なくなっちゃうわ……♡」
梨花は顔を赤らめ、目を下にそらした。――何だって? そんなに激し
い百合漫画がしまわれているのか、ここには。
私は思わず唾を飲み込んだ。……テストが終わったら――これを読みな
がら……りっ、梨花とっ……!
「だから今日はだ~めっ!」
梨花に鼻先をツンと突っつかれた。このお姉さんみたいな表情――いい
なぁ……可愛い。
梨花の教え方が上手いのか、私の理解力が凄いのか分からないけど(多
分前者だろうけど)、一応一時間程復習したら昨日までやったところを徐
々に思い出してきた。――これなら大丈夫、私なりには多分出来る。
「ねぇ……梨花ぁ――そろそろぉ……♡」
私は梨花の制服の裾を引っ張った。――精一杯甘えた声を出して。
「ふぅっ……」
梨花は溜息をつき、
「もぅ……しょうが無いなぁ……♡」
梨花は椅子から降り、ベッドの端に座った。
「明日で最終日なんだから、ちょっとだけだよ?」
「分かってる」
……とは言ったものの、始めてしまえば止められる物でも無く――結局
どちらかの腰が砕けちゃうまで続けてしまった。
「ぷはっ……♡ もう一回いく?」
「ごめん……流石にもう、帰らないと……」
窓から見える景色は真っ暗だった。――多分今日は母が家にいる、無断
外泊は少々まずかろう。
私はやっぱり、最後にお別れのキスと称し一回だけ軽く優しいキスをし
て、梨花の家を後にした。




